介護事業経営者が知るべき「介護DX」の羅針盤 〜AIが拓く、人材不足解消と質の高いケアの両立〜

介護事業経営者が知るべき「介護DX」の羅針盤 〜AIが拓く、人材不足解消と質の高いケアの両立〜

第2章:導入の壁を乗り越える実践ガイド

介護事業経営者がDX導入をためらう最大の要因は、「高価」で「難しい」という先入観にあります。

しかし、これらのハードルは、適切な戦略をもって乗り越えることが可能です。  

【安価】導入コストを劇的に下げる資金調達戦略

DX導入には初期費用や運用コストがかかるのは事実ですが、国や自治体はDX推進を強力に後押ししており、各種補助金制度を活用することで、その負担を劇的に軽減できます。  

特に活用すべき制度は、厚生労働省が実施する「介護テクノロジー導入支援事業」や経済産業省の「IT導入補助金」です。
これらの補助金は、システムやロボット、タブレット端末などの購入費用を一部補助してくれます。  

以下の表は、主要な補助金制度の概略を整理したものです。
これらの制度は、介護ソフトや見守りシステム、移乗支援ロボットなど、幅広い機器が対象となります。

補助金制度の概要一覧.pdf ( 484 KB )

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補助金は単なる導入費用の軽減に留まらず、国や自治体がDXを強く推進しているという「政策的な後押し」を意味します。

これを活用することは、未来への投資リスクを最小限に抑える賢明な経営判断と言えるでしょう。

また、初期投資を抑える方法として、購入だけでなく「レンタル」や「サブスクリプション」という選択肢も増えています。

特にクラウド型の介護ソフトは、高価なサーバー購入が不要で、月額利用料のみで手軽に始められるため、中小規模の事業所にとって長期的な費用対効果に優れている場合が多く見られます。

タブレットやスマートフォンも、月額数千円でレンタルできるサービスも存在します。  

【簡単】スムーズな導入と職員の抵抗をなくす秘訣

「簡単」な導入を実現するためには、以下の2つのポイントが重要です。

まず、「スモールスタート」を意識することです。

最初から全ての業務をデジタル化しようとせず、シフト管理システムやチャットツールなど、職員が日常的に使い、すぐに効果を実感できるシンプルなツールから導入を始めることを推奨します 。  

そして、政府が推進する「ケアプランデータ連携システム」のような、使いやすさを追求したシステムを活用することです。

このシステムは、居宅介護支援事業所と介護サービス事業所間のケアプランや提供票のやり取りをデータで行う政府推奨の仕組みです。

従来の「印刷、郵送、FAX、再入力」といった非効率な業務をなくし、介護ソフトから出力したファイルを「ドラッグ&ドロップ」するだけで一括送信できる、極めて「かんたん」な操作性を実現しています。
 
このシステムの利用は、単なる業務効率化に留まりません。

令和6年度の介護報酬改定で、このシステムを活用することが「居宅介護支援費(Ⅱ)」の算定要件の一つとなり、収益増に直結する経済的メリットが生まれたのです。

これは、DXが「高価な企業戦略」ではなく、国全体で整備が進む「必須のインフラ」へと変わりつつあることを示唆しています。
 
DX導入の成功には、テクノロジー選定だけでなく、職員の理解と協力が不可欠です。

導入前に業務フローを見直し、特定の職種や年齢層に偏らず、現場の職員を巻き込んでチームを組成することの重要性を忘れてはなりません 。  

第3章:成功事例に学ぶDXのリアル

ここでは、実際にAIやテクノロジーを活用して課題を解決した具体的な事例を紹介し、DXがもたらす変革をより具体的にイメージしていただきます。  

[事例1] 業務効率化で職員が輝く

神戸中央福祉会 塩屋さくら苑:AI送迎表作成システム

・導入前の課題
大規模デイサービスで、送迎表の作成と急な変更対応に1日60〜80分を要し、担当職員に負担が集中していました。  

・導入後の効果
AI送迎表作成システムを導入した結果、作成時間を90%削減 。GPS連動で訪問経験のない利用者宅への送迎もスムーズになり、リスク管理も向上しました。  

KDDI:対話AI「MICSUS」

・導入前の課題
ケアマネジャーのモニタリング面談記録作成に、月延べ160時間もの時間を費やしていました。
 
・導入後の効果
対話AI「MICSUS」が面談内容を自動で記録することで、面談記録業務を70%削減 。これにより、職員は本来のケアマネジメント業務に集中できる時間を確保しました。  

[事例2] ケア品質と安全性を両立する

社会福祉法人与勝会:3DセンサーAIシステム

・導入前の課題
月平均1.2件の転倒事故が発生し、夜間のコール対応が遅れることで職員の疲弊も課題でした。  

・導入後の効果
3DセンサーAIシステムを導入した結果、転倒回数を48%削減 。同時に、介護職員のケア時間を30%削減し、利用者様の安全確保と職員の負担軽減を両立しました。  

建昌福祉会さざんか園:排泄予測AI

・導入前の課題
利用者の排泄パターンが把握できず、夜間巡視が1人あたり6回必要で職員の負担が大きく、失禁事故も多発していました。
 
・導入後の効果
排泄予測AIを導入し、適切なタイミングでトイレ誘導を促すことで、夜間巡視を50%削減 。失禁事故が減少し、利用者様の皮膚トラブルも軽減されました。  

[事例3] 経営を変革するデータ活用

愛媛県伊予市・西条市:AIケアプラン

導入前の課題
ケアプラン作成が、ケアマネジャーの経験や勘に依存し、利用者ごとの状況に合わせた最適なプラン立案が困難でした。  

導入後の効果
居宅サービス計画ガイドラインや認定調査票のデータからAIが最適なプランを提案した結果、要介護改善率を3.4ポイント向上。データに基づいた科学的で個別化された介護が実現しました。  

AIケアプラン導入一覧.pdf ( 57 KB )

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