かつて診断から3年ほどで亡くなることが多かった「多発性骨髄腫」。しかし今、この血液がんの治療は劇的な変化を迎えています。「医者になって50年、こんなに治療が進歩した病気はほかにない」と語るのは、日本赤十字社医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問の鈴木憲史医師。
移植治療が適応となる患者に対して最新の4つの薬を組み合わせる治療法により、17年もの間病気が悪くならずに過ごせることが期待できる時代になったといいます。治療しながら社会で活躍し続ける患者さんの実例とともに、多発性骨髄腫治療の最前線をお伝えします。

監修医師:
鈴木 憲史(日本赤十字社医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問)
新潟大学医学部卒業、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)大学院修了(医学博士)。東京大学医学部第3内科で血液学研究に従事後、日本赤十字社医療センターで約50年にわたり多発性骨髄腫の診療と研究に携わる。同センター第2内科部長、副院長、輸血部長を歴任し、2016年より骨髄腫アミロイドーシスセンターを立ち上げ、センター長として日本の骨髄腫診療をリード。2021年より現職。日本血液学会専門医・指導医・功労会員、米国血液学会会員、日本骨髄腫学会功労会員、日本免疫治療学会名誉会員。日本赤十字看護大学大学院非常勤講師。治らない病気を治したいという信念のもと、48年前に「悲惨な病気」だった多発性骨髄腫の治療成績向上に貢献。現在も日本で最も多くの移植手術を手がける施設の一つで診療を続ける。若い頃のモットーは「朝は希望に起き、昼は努力に生き、夕は感謝とともに眠る」。70歳を過ぎてからは「青春は老境にあり」と掲げている。
多発性骨髄腫とはどんな病気か
多発性骨髄腫は、血液を作る骨髄で、抗体を作る役割を持つ「形質細胞」という血液細胞が異常に増えてしまう「血液のがん」です。日本では年間約7000人が新たに診断され、65~70歳での発症が最も多くなっています。
この病気の特徴的な症状は「CRAB(クラブ)」と呼ばれています。高カルシウム血症(Calcium)、腎機能障害(Renal)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion)の頭文字を組み合わせたものです。
「骨がボロボロと崩れ、痛みで苦しむ患者さんを見て、なんとか治したいと思い続けてきました」と鈴木医師は語ります。
48年前、医師として衝撃を受けた「悲惨な病気」
1976年に医師となった鈴木医師が初めて多発性骨髄腫の患者さんを診たとき、その悲惨さに衝撃を受けたといいます。
「みんな3年ぐらいで『痛い、痛い』と言いながら骨がボロボロ落ちて、『苦しいよ、苦しいよ』と亡くなっていった。こんな悲惨な病気が世の中にあるのかと思いました」
当時、同僚からは「なんでそんな辛気臭い、治らない病気をやるんだ」と言われたそうです。しかし鈴木医師は諦めませんでした。
「白血病やリンパ腫はかなり治療成績が良くなってきていた。でも骨髄腫だけは壁のように立ちはだかっていた。治らない病気をなんとか治したい、それが私の夢でした」

