移植治療の実際と新たな選択肢
移植が可能な患者さん(原則65歳以下、心臓や肺の機能が正常、重い持病がない方)には、自分の血液を作る細胞(造血幹細胞)を使った移植治療が検討されます。
治療は段階的に進められます。最初の治療として4サイクル、約16週間のD-VRd療法を週1回の通院でおこないます。次に自分の造血幹細胞を採取して冷凍保存。その後、メルファランという薬を大量に投与してから幹細胞を戻す移植をおこないます。この期間は約1カ月の入院が必要です。移植後は仕上げの治療として2サイクルのD-VRd療法をおこない、最後に月1回の通院で維持療法を続けます。
「移植による死亡率は現在1%ぐらいで、かなり安全にできます。ただ、髪の毛が抜けて1カ月入院というのはやっぱり負担」と鈴木医師。
「最近は必ずしも移植をやらなくてもいいのではないかという話も出ています。仕事を移植で1カ月休まなきゃいけないので、仕事に影響するからやらない方法はないですかという人も結構いて。薬も進歩したから、患者さんと相談して決めています」
実際、アメリカではかなりのケースで移植をやらなくなってきており、日本でも鈴木医師は「少し減らしている」とのことです。
「働いて税金を納める」生産的な治療へ
鈴木医師は医療経済の観点からも、この治療法の意義を強調します。
「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言であるという二宮尊徳の言葉があります。医療費が非常に高い今、この4つの薬を使う治療法は消費的ではなく生産的であるべきだと思っています」
実際の患者さんの社会参加の例として、国際線CAとして月3回海外へ飛ぶ患者さん、大手企業の管理職として勤務を継続する患者さん、高齢者でも公園清掃や草むしりなどの社会貢献活動に参加する患者さんがいます。
「お年寄りにも『やることがないって言ったら、公園のゴミ拾いでも草むしりでもいいよ。社会に貢献しなさい』と言うのです。収入はなくてもいいから、それも大事なんだというと、結構やってくれるんですね」
さらに鈴木医師は患者さんに伝えます。「いつもニコニコしていなさい。作り笑いでもいいから笑っていた方が免疫細胞は増えるし、免疫力が高まる。『再発させないぞ』という気持ちが大事です」
編集部まとめ
「治らない病気」から「治せる病気」へ。多発性骨髄腫の治療は、この50年で想像を超える進化を遂げました。最新の4つの薬を組み合わせる治療法により、17年もの間、病気をコントロールできる時代が到来したのです。
何より印象的だったのは、患者さんが治療を受けながら普通に働き、社会生活を送っている実例の数々。そして鈴木医師の「最初にきちっと治療して、ゴールを決めて、いつか薬をやめられる」という言葉。
医療の進歩が、単に生存期間を延ばすだけでなく、人生の質そのものを守る時代になったことを実感させられます。病気と共に生きるのではなく、病気を克服して生きる。そんな未来が、もうそこまで来ているのかもしれません。
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