●現行法でも器物損壊罪が成立
──仮に「日本国国章損壊罪」が成立した場合、どのような法的問題が生じるでしょうか。
現行法では、他人の所有物である国旗を壊した場合、器物損壊罪(刑法261条・3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金等)に問われます。一方、外国国章損壊等罪(同92条)の刑罰は「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金」で、器物損壊罪より軽いです。
今のところは、他人の日本国旗を壊した場合、行為態様や状況によって、器物損壊罪や建造物侵入罪、業務妨害罪などで処罰されるでしょう。
もし新設された日本国国章損壊罪が同様の罰則であれば、2つの罪の関係をどう考えるかによっては、他人の国旗を壊した場合、従来よりも軽い罪に問われることもあるでしょう。つまり、刑罰の新設が逆に処罰の軽減につながるという矛盾が生じます。
自分の所有する国旗を損壊する行為を処罰しようとするなら、それは表現そのものを規制することに他なりませんから、憲法21条1項が保障する「表現の自由」の侵害にあたります。
国旗を燃やしたり、バツを書くなどの行為について、不快に思う人はいるでしょう。私も不快に思うことはあります。しかし、他人の行為を「不快だ」という理由だけで刑罰により禁止するのは行き過ぎです。刑罰の拡大は、いずれ国民自身の自由を制限する刃となって返ってくるでしょう。
●政治的抗議も「侮辱目的」とされるおそれ
──「日本を侮辱する目的」という要件がありますが、その立証は可能なのでしょうか。政治的抗議まで処罰されるおそれはありませんか。
外国国章損壊等罪では「外国に対する侮辱を加える目的」が要件です。これは、行為の客観的態様が侮辱的な意味を持ち、行為者がその意味を認識していたことをいいます。
同様に「日本を侮辱する目的」が要件とされる場合も、行為の客観的態様が侮辱的であることと、その認識が犯罪成立に必要になると考えられます。
しかし、政策や政権への抗議として国旗を燃やす行為などは、抗議の表現としておこなわれるだけで、侮辱的意味を有しているとみなされかねません。結果として、そのような政治的表現や抗議活動が処罰対象となるおそれがあります。
しかし、民主主義社会では、自由な意見表明こそが最も尊重されるべき「表現の自由」です。刑罰による抑制はその根幹を揺るがします。

