路上や駅構内などで体当たりしてくる「ぶつかりおじさん(おばさん)」の被害を受けたという人が、SNS上に投稿した"意外な反撃方法"が注目を集めている。
あるXのユーザーは、ぶつかってきた相手の後を5分ほど無言でつけていったところ、「半泣きで謝罪」を受けたと投稿した。
また、これを引用する形で、別のユーザーは、相手の勤務先までついて行き、受付で「突き飛ばされたので被害届をだそうと思って」と伝えたと明らかにしている。
このように"加害者"とされる人物の職場に被害を申告する行為は、被害を訴える側にとってどんな結果をもたらすのだろうか。「実はリスクもある」と指摘するのは、寺岡慎太郎弁護士だ。法的な見解を聞いた。
●ぶつかりおじさんの会社に「被害を受けた」と伝える→名誉毀損罪に問われる可能性も
━━体当たりされてケガをした場合、「ぶつかりおじさん」はどんな罪に問われるのでしょうか。
体当たりは、人に対する違法な有形力の行使であるため、暴行罪(刑法208条)が成立します。さらに、体当たりによってケガをした場合は、より重い傷害罪(刑法204条)が成立します。
━━被害者が、「ぶつかりおじさん」の勤務先に「被害を受けた」と申し出た場合、どんな法的問題が生じますか。
最も問題になるのは、その申告が名誉毀損罪(刑法230条1項)にあたるかどうかです。
名誉毀損罪は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」したときに成立し、法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています。
名誉毀損が成立するには(1)公然性、(2)事実の摘示、(3)社会的評価の低下、という3つの要件を満たす必要があります。
●会社の受付などで大声で訴える→「公然性」が成立しうる
この3要件について、会社に被害を伝えるケースをあてはめて考えてみましょう。
(1)公然性とは、不特定または多数の人に情報が伝達されうる状態のことを指します。SNS上や不特定多数の人がいる場所で事実を伝えた場合は、公然性が認められます。
同様に、会社のエントランスや受付など、人の出入りが多い場所で大声で訴えた場合も公然性の要件を満たすでしょう。
次に(2)具体的な事実の摘示が必要となります。
「この人、ぶつかりおじさんです」とだけ伝える場合は、具体的な事実の摘示とまでは言えず、名誉毀損が成立しない可能性もあります。
しかし、「この人は、今日午前8時15分、JR新宿駅前で私に体当たりしてケガを負わせました」と具体的に述べれば、事実の摘示に該当しうるでしょう。
(3)社会的評価の低下は、実際に低下したかどうかではなく、「低下するおそれがある状態」だけでも成立します。
「この人に突き飛ばされた」という内容は、相手が暴力的な人物であるという印象を与え、社会的評価を損なうおそれがあるといえます。
つまり、ぶつかりおじさんの会社に被害を伝える行為は、内容や伝え方によっては名誉毀損に該当するリスクがあります。

