水面下の調査で、卓也の不貞行為の決定的な証拠が発覚。三者面談で不貞相手が、妊娠報告直後からの裏切りだったことを告白し、卓也のもとを去る。傲慢だった卓也は一転、手のひらを返して結婚継続を懇願する。
「妊娠報告」から始まった、計画的な裏切り
神崎先生は「証拠集めに最適な探偵を紹介しますよ」と、知り合いの探偵事務所を紹介してくれた。いくつもの不貞を暴いた実績があるという。
探偵事務所は、すぐに動き出した。夫の勤務実績から、女と会っていそうな曜日を割り出して尾行するという。その動きはさすがプロといった感じで、安心してお任せできた。
別居から約2ヶ月経っていたが、婚姻費用は毎月きっちり振り込まれた。神崎先生が夫にしっかりと釘をさし、支払いが遅れれば調停を起こすと伝えてくれていたからだ。卓也は「いいから早く離婚手続きを」と焦っていたが、私たちは応じることなく先延ばしにした。
そんなある日、神崎先生から電話が入った。
「探偵から報告がありました。不貞行為の証拠がそろいましたよ。やっぱり女がいましたね。相手の女性の氏名、勤務先、そしてラブホテルに出入りする写真など、裁判でも十分通用する決定的なものが手元にあります。これで戦えますよ」
「もう遅いよ」泣きつく夫と、完全に冷えた妻の瞳
私は、怒りよりも、やはりそうだったかという冷たい納得感に包まれた。やはり母の勘は正しかったのだ。
相手の女の連絡先も確保していたので、自宅住所に弁護士名で通知を送り連絡をとった。相手は焦った様子で神崎先生に連絡をとってきたという。その後、弁護士立ち合いのもと、卓也と・不貞相手の女性・美咲(みさき)を交えた話し合いが行われた。
卓也は、証拠写真を突きつけられると焦った様子だったが、すぐにこう言った。
「これは別居後ですよね?離婚を申し出た後ですし、婚姻関係は破綻していたので不貞にはならないはずですよ」
すると、神崎先生は落ち着いてこういった。
神崎「そうなんですか?ねえ、美咲さん」
美咲「...私たちが関係を持ったのは、葵さんが妊娠を報告された、すぐ後からです」
卓也「みさき…!」
美咲「卓也さんは、奥さんが妊娠してからの生活が耐えられない、自由がない、と私に何度も言ってきました…」
美咲は、卓也の言い分がウソだと証言したのち、卓也の顔を見ることなく、私に深く頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい…」
実はこの美咲さんの態度には裏がある。この面談の前、神崎先生との電話連絡の時点で「正直に不貞の開始時期を話してくれれば、慰謝料を減額できる」と伝えていたのだ。美咲は卓也よりもお金をとったというわけだ。
「慰謝料はお支払します。そして、もう彼とは会いません」
美咲はもう夫と会わないこと、慰謝料を振り込むことを書いた誓約書にサインし、話し合いの場から去った。
美咲がいなくなったあと、卓也は手のひらを返したようにこう言い出した。
「葵、ごめん。俺が悪かった。俺がどうかしてたよ。やり直してほしい…」
私は静かに卓也を見た。その目には、もはや愛情の欠片もなかった。
「もう遅いよ」
偽りの愛が崩れ去った瞬間だった―――。

