薬剤による甲状腺クリーゼの誘発は医療現場において特に注意すべき事項です。既存の甲状腺機能亢進症を有する患者さんに対して特定の薬剤や医療処置を行う際には、甲状腺クリーゼのリスクを十分に評価し適切な予防策を講じる必要があります。ヨード造影剤やアミオダロンについて解説します。

監修医師:
五藤 良将(医師)
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。
甲状腺クリーゼを誘発する薬剤と医療処置
薬剤による甲状腺クリーゼの誘発は、医療現場において特に注意すべき事項です。既存の甲状腺機能亢進症を有する患者さんに対して、特定の薬剤や医療処置を行う際には、甲状腺クリーゼのリスクを十分に評価し、適切な予防策を講じる必要があります。
ヨード造影剤による甲状腺機能への影響
ヨード造影剤は、CT検査や血管造影検査などで広く使用される薬剤ですが、甲状腺機能亢進症患者さんにとっては甲状腺クリーゼの重要な誘因となります。大量のヨードが体内に投与されることで、甲状腺ホルモンの合成が一時的に亢進し、既存の甲状腺機能亢進症が急性増悪する可能性があります。
ヨード誘発性甲状腺中毒症(ヨードバセドウ)は、特に結節性甲状腺腫や潜在性甲状腺機能亢進症を有する患者さんで発症しやすいとされています。造影剤使用後数日から数週間で甲状腺機能亢進症状が出現し、重篤な場合には甲状腺クリーゼに進展することがあります。
造影剤使用前の甲状腺機能評価は極めて重要です。甲状腺機能検査により甲状腺機能亢進症の存在を確認し、必要に応じて抗甲状腺薬による前処置や、造影剤を使用しない検査法への変更を検討する必要があります。緊急時で前処置が困難な場合には、造影剤使用後の厳重な経過観察が不可欠です。
アミオダロンと甲状腺機能異常
アミオダロンは不整脈治療に使用される薬剤ですが、その化学構造にヨードを多量に含有しているため、甲状腺機能に複雑な影響を与えます。アミオダロン誘発性甲状腺中毒症(AIT)は、甲状腺クリーゼの重要な原因の一つとして認識されています。
AITには2つの病型があります。1型AITは、潜在的な甲状腺疾患を有する患者さんで、過剰なヨード供給により甲状腺ホルモン合成が亢進して発症します。2型AITは、正常甲状腺において、アミオダロンの直接的な細胞毒性により甲状腺細胞が破壊され、蓄積された甲状腺ホルモンが血中に放出されることで発症します。
アミオダロン使用患者さんでは、定期的な甲状腺機能モニタリングが必要です。TSH、FT4、FT3の測定に加えて、甲状腺超音波検査やシンチグラフィーによる評価も有用です。AITの診断が確定した場合には、速やかに専門医への紹介と適切な治療の開始が重要です。
まとめ
甲状腺クリーゼは、適切な知識と早期対応により予防可能です。症状の初期段階での認識、妊娠中の特別な配慮、そして発症原因の理解は、患者さんとそのご家族にとって生命を守るための重要な情報となります。特に妊娠中の方では、母体と胎児の両方への影響を考慮した慎重な管理が不可欠です。
甲状腺機能亢進症と診断されている方や、甲状腺に関する症状がある方は、定期的な医療機関での経過観察を受け、緊急時には迷わず専門医療機関を受診することをおすすめします。
参考文献
日本甲状腺学会 – 甲状腺クリーゼの診断と治療
日本内分泌学会 – 甲状腺疾患診療ガイドライン
日本産科婦人科学会 – 妊娠と甲状腺疾患日本内科学会 – 妊娠中の甲状腺疾患の薬物療法

