歌川広景 江戸名所道戯尽 廿二 御蔵前の雪
生没年不詳、専門家でも正体が分からない謎の絵師。
歌川広景 江戸名所道化尽 十九 大橋の三ツ股
まず歌川広景とはどのような人物なのでしょうか。実のところ生没年は不詳、生家や家族などを記した資料もなく、その正体は専門家でもよく分かっていません。
また活動した期間も3年弱と短く、現在、確認されている作品は65点あまり。すべて大判の錦絵で、肉筆画や摺物などについては未だ発見されていません。
歌川広景 江戸名所道戯尽 十六 王子狐火
そうした広景の代表作とされるのが、「江戸名所道戯尽」全50点です。歌川広重の「名所江戸百景」と同じく幕末の江戸の名所を舞台としていますが、広景の作品は「お笑い江戸名所」シリーズとも言えるもの。野良犬に魚を盗まれたり、蕎麦を頭からかぶったり、タヌキやキツネに化かされたりと、江戸っ子たちの日々の暮らしに起きた笑いのハプニングがユーモラスに描かれています。
代表作「江戸名所道戯尽」の見どころとは?
歌川広景 江戸名所道外尽 壹 日本橋の朝市
「江戸名所道外尽 壹 日本橋の朝市」は、北詰に魚市場の立ち並んでいた日本橋にて、野良犬が魚売りの隙をつき、たらいの中から魚を盗み出す光景を描いた一枚です。彫物の入った魚売りが凄まじい険相で野良犬を追っかけていますが、すでに手遅れなのか、野良犬は獲物をくわえ、どこか得意げな表情で逃げているようにも見えます。
歌川広景 江戸名所道戯尽 十四 芝赤羽はしの雪中
増上寺の南側を流れる渋谷川に架かっていた赤羽橋を舞台とした「江戸名所道戯尽 十四 芝赤羽はしの雪中」も、ハプニングの一瞬を見事に捉えた作品です。
雪の積もった橋を渡ろうとした男性が滑らせ、勢いよく尻もちをつくと、その衝撃で下駄が外れて飛び、前を歩いていた人物の顎に命中。痛みと驚きが入り混じる瞬間が生き生きと描かれています。しかし転倒した男性には呑気な笑みも浮かんでいて、見る者の笑いを誘うのです。日常の失敗が悲劇ではなく、喜劇として表現されているようにも思えないでしょうか。
歌川広景 江戸名所道化尽 九 湯嶋天神の台
笑いと言えば「江戸名所道化尽 九 湯嶋天神の台」も面白い一枚です。蕎麦屋が出前の最中、野良犬に足を噛まれてしまい、蕎麦をひっくり返してしまいますが、あろうことか隣を歩いていた武士の頭に蕎麦が被ってしまいます。
当然ながら武士は不愉快な表情をしていますが、何故か供の者はその姿を見て、指さしながら口を開けて大笑い。何とも楽しそうな様子を見せています。
