かつて「死の病」と恐れられた「HIV/AIDS」。診断されれば社会から隔絶され、限られた時間を苦痛とともに過ごすしかなかった時代がありました。しかし、現在では1日1錠の薬を飲むだけで、感染していない人と変わらない寿命を全うできる時代が到来しています。
「U=U(検出限界未満=感染しない)」という革命的な概念により、性的接触で感染しない時代になりました。外務省主催TICAD9のテーマ別イベント、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のシンポジウムで、同研究所の保富康宏氏と東京大学の古賀道子氏が語った、HIV治療の劇的な進化に迫ります。
登壇者:
保富 康宏(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター センター長)
登壇者:
古賀 道子(東京大学新世代感染症センター 感染症研究分野教授)
登壇者:
スカーレット・コーネリッセン(南アフリカ・ステレンボッシュ大学教授)
HIVの基礎知識 – 免疫システムを破壊するウイルス
HIVは「Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)」の略で、主に性的接触による感染、血液を介しての感染(注射器・注射針の共用など)、母子感染などによって感染します。1981年にアメリカで男性同性愛者の間での免疫不全症が報告され、1983年にフランスのバレシヌシ博士・モンタニエ博士らがHIVを発見しました。この功績により二人は2008年にノーベル賞を受賞しています。
古賀氏によると、感染後の経過は段階的に進行します。感染直後の2~4週間は急性期と呼ばれ、発熱やリンパ節の腫れなど、インフルエンザのような症状が出ることがあります。その後、無症状の慢性期が約8年続きます。
免疫力の指標となる「CD4陽性T細胞」(体を守る免疫システムの司令塔となる細胞)が、治療しなければ減少し、健康な人では通常1500個/μL以上あるものが200個/μL以下になります。普段なら問題にならない弱い病原体でも重篤な感染症を起こす「日和見感染症」を発症します。この段階を「エイズ」と呼びます。
革命的な治療の進歩 – 「U=U(検出限界未満=感染しない)」
現在の抗HIV療法は、ウイルスの増殖を強力に抑制します。治療により血中のウイルス量が検出限界未満(通常の検査では見つからないレベル)になれば、性的接触しても他人に感染することはありません。これがU=U(Undetectable = Untransmittable)という概念です。
このU=Uは、WHO(世界保健機関)も認める科学的事実として確立されています。古賀氏は「HIVに感染していても適切な治療を受けていれば、パートナーへの感染リスクはゼロ。これは本当に重要なメッセージです」と強調します。「治療すること」が「予防すること」なのです。

