最近、「潰瘍性大腸炎」という病気を耳にすることが増えてきました。この病気は、適切な治療を続ければ普段どおりの生活を送ることも可能ですが、放置すればさまざまなリスクが伴います。そこで、潰瘍性大腸炎の初期症状から検査・治療、日常生活で気を付けたいポイントなどについて、医師の河口貴昭先生(河口内科眼科クリニック)に解説してもらいました。

監修医師:
河口 貴昭(河口内科眼科クリニック)
2003年千葉大学医学部卒業。NTT東日本関東病院内科レジデントの後、東京山手メディカルセンター(旧社会保険中央総合病院)や慶應義塾大学病院などで炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)という腸の免疫難病の治療に長年取り組む。2022年11月、これまで培ってきた経験と知識をより多くの方々に還元したいと「河口内科眼科クリニック」を開設、院長となる。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、日本炎症性腸疾患学会IBD専門医・指導医。
潰瘍性大腸炎とは? 医師が解説
編集部
潰瘍性大腸炎とはどんな病気ですか?
河口先生
大腸は、消化管の最後にある1.5mほどの臓器で、肛門とつながっています。潰瘍性大腸炎は、この大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、腹痛や下痢・血便などを繰り返す病気です。直腸(大腸の一番最後の部分)から始まった炎症が、大腸全体へと連続的に広がっていくのが特徴です。
編集部
どうしてそのような炎症が起こるのでしょうか?
河口先生
大腸は病原菌などの外敵から体を守るために「腸管免疫」が発達していますが、この免疫が暴走し、自分自身の腸粘膜を攻撃してしまうことで炎症が起きると考えられています。原因はまだ完全には解明されていません。
編集部
この病気の患者さんは多いのですか?
河口先生
かつての日本では非常にまれな病気でしたが、1980年代以降急増しています。最新のデータでは30万人以上の人が潰瘍性大腸炎に罹患していると推計されていて、この10年で10万人も増加しています。潰瘍性大腸炎は、今や珍しい病気ではなく、誰にでも起こりうる疾患といえます。
編集部
最初はどのような症状から始まることが多いのでしょうか?
河口先生
初期症状は下痢や腹痛なので、はじめは「お腹をこわしたかな」程度にしか感じない人も多いです。下痢が何週間も続いたり、便に血や粘液が混じったりするようになって初めて「あれ?」と思うようになりますが、受診を先延ばしにしているうちに症状が悪化してしまうケースも多いです。
潰瘍性大腸炎の治療を詳しく知りたい!
編集部
症状が悪化すると、どうなりますか?
河口先生
炎症が進行すると、1日に何度も下痢や血便が出たり、トイレに頻繁に行かないといけなくなったり、トイレからなかなか出られないという状況になったりします。進行を防ぐためには早期発見・早期治療が非常に大事です。
編集部
診断のためにはどんな検査をおこないますか?
河口先生
大腸カメラ(内視鏡)で粘膜の状態を直接確認し、必要に応じて組織検査をおこないます。また、血液検査や便検査などでも炎症の程度を評価します。
編集部
治療はどのように進めていくのでしょうか?
河口先生
まずは5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤で炎症を抑えるのが基本です。症状の程度によっては、ステロイドや免疫調整薬、生物学的製剤なども使いますし、昨今はさまざまな新薬も開発されてきています。薬の進歩によって、多くの人が外来治療で潰瘍性大腸炎をコントロールできるようになっています。
編集部
研究が進んでいるのですね。
河口先生
その通りです。潰瘍性大腸炎については、毎年のように新しい薬が登場しており、研究も着実に進んでいます。「今後、もしかしたら潰瘍性大腸炎の原因がわかるかもしれない」というような研究成果も出てきており、近い将来には完治につながるような大きな発見がなされることを期待したいところです。
編集部
一方で、薬で改善しない場合もあるのでしょうか?
河口先生
そうですね。ごく一部ではありますが、残念ながら薬でコントロールできないケースもあります。そういった難治例や、がんを合併した場合などは、最終手段として大腸を摘出する手術が選択されることもあります。

