甲状腺クリーゼの発症には特定の甲状腺疾患や体質的要因が深く関与しています。バセドウ病や中毒性結節性甲状腺腫など背景疾患の特徴を理解することは、高リスク患者さんの同定と適切な管理戦略の構築において重要です。それぞれの疾患と甲状腺クリーゼとの関連について解説します。

監修医師:
五藤 良将(医師)
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。
甲状腺クリーゼの背景疾患と体質的要因
甲状腺クリーゼの発症には、特定の甲状腺疾患や体質的要因が深く関与しています。これらの背景因子を理解することは、高リスク患者さんの同定と適切な管理戦略の構築において重要です。
バセドウ病の病態と甲状腺クリーゼへの関連
バセドウ病は甲状腺クリーゼの頻度の高い基礎疾患です。この疾患では、甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)が甲状腺のTSH受容体を持続的に刺激し、甲状腺ホルモンの過剰産生を引き起こします。バセドウ病患者さんの甲状腺は既に過剰に活性化された状態にあるため、外的要因により容易に甲状腺クリーゼへと進展する可能性があります。
バセドウ病の重症度は甲状腺クリーゼのリスクと直接的に関連します。甲状腺腫の大きさ、眼症の有無、甲状腺ホルモン値の程度などは、甲状腺クリーゼの発症リスクを評価する重要な指標となります。特に初回診断時や治療開始初期、治療中断時には、甲状腺クリーゼのリスクが高まることが知られています。
抗甲状腺薬による治療中のバセドウ病患者さんでも、薬剤の自己中断や不規則な服薬により甲状腺機能が急激に悪化し、甲状腺クリーゼを発症することがあります。患者さんへの服薬指導と定期的な経過観察は、甲状腺クリーゼの予防において不可欠な要素です。
中毒性結節性甲状腺腫の特徴
中毒性結節性甲状腺腫(多結節性甲状腺腫、プランマー病)は、甲状腺内に自律的に機能する結節が形成され、甲状腺ホルモンの過剰産生を来す疾患です。この疾患は比較的高齢者に多く、甲状腺クリーゼのリスク要因として重要です。
結節性甲状腺腫による甲状腺機能亢進症は、バセドウ病と比較して症状が緩徐に進行することが多いため、診断が遅れる傾向があります。しかし、ヨード造影剤の投与や感染症などの誘因により、急激に甲状腺機能が悪化し、甲状腺クリーゼに至ることがあります。
高齢者では甲状腺クリーゼの症状が非典型的に現れることが多く、心房細動や心不全が主たる症状として前面に出ることがあります。また、認知症やほかの併存疾患により症状の把握が困難な場合もあり、診断と治療が困難になることがあります。
まとめ
甲状腺クリーゼは、適切な知識と早期対応により予防可能です。症状の初期段階での認識、妊娠中の特別な配慮、そして発症原因の理解は、患者さんとそのご家族にとって生命を守るための重要な情報となります。特に妊娠中の方では、母体と胎児の両方への影響を考慮した慎重な管理が不可欠です。
甲状腺機能亢進症と診断されている方や、甲状腺に関する症状がある方は、定期的な医療機関での経過観察を受け、緊急時には迷わず専門医療機関を受診することをおすすめします。
参考文献
日本甲状腺学会 – 甲状腺クリーゼの診断と治療
日本内分泌学会 – 甲状腺疾患診療ガイドライン
日本産科婦人科学会 – 妊娠と甲状腺疾患日本内科学会 – 妊娠中の甲状腺疾患の薬物療法

