アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)は、認知症ほど生活に大きな支障をきたすことはありません。しかし、今までできたことがスムーズにできないといったような困りごとが出てきます。アルツハイマー病によるMCIによって困りごとが起きたときの具体的な対処法について解説します。
記事監修医師:
岩田 淳(東京都健康長寿医療センター 副院長)
アルツハイマー病によるMCIでは、生活に大きな支障はなくても困りごとはある
アルツハイマー型認知症の前段階であるアルツハイマー病によるMCIは、「日常生活動作は正常」「客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる」などと定義されています(1)。食事や入浴、排せつといった日常の中の基本的な動作を行うには問題がないものの、認知機能の一部が低下している状態です。
認知機能とは、記憶、言語、判断、計算、遂行など、生活に関わる脳の様々な働きを総称したものです。アルツハイマー病によるMCIではこの中のひとつ以上に障害がみられます。とくに多く認められるのが記憶の障害です。
上記のような認知機能が低下すると、これまでスムーズにできていたことができなくなったり、理解できていたことが理解できなくなったりします。日常生活に支障はないといっても、家族や周囲が対応に困ることも度々起こり得ます。
そのときの対処を誤ってしまうと、本人が傷ついたり感情が高ぶったりしてかえって状況を悪くしてしまう可能性があります。大切なのは、本人の状態ではなく、困りごとそのものに目を向けることです。アルツハイマー病によるMCIで起こる困りごとには、どのように対処するのが理想なのでしょうか。事例を紹介します。
困りごと~何度も同じ話をしたり確認したりする~
アルツハイマー病によるMCIでみられる認知機能の低下のうち、最も多いのがもの忘れです。もの忘れは単なる老化でも生じますが、MCIのもの忘れは、経験したことは憶えているものの詳細な内容は忘れてしまうことを特徴とします。たとえば、会う約束をしたことは憶えているけれど待ち合わせの時間は忘れている、誰もが知るようなニュースなどの話題について、少し踏み込んだ内容になると明確に思い出せない、といった具合です。そのため、同じ相手に何度も同じ話をしたり確認を取ったりします。
同じ話を繰り返し聞かされると、ついつい対応が雑になってしまうこともあるかもしれません。しかし、本人に同じことを繰り返している自覚はありません。本人は初めて話しているつもりであり、それをうるさがったり咎めたりすれば、疎外感や孤独感を抱くなど、強いストレスを感じてしまうことになりかねません。
何度も同じ話をしたり確認するときの対処法
まずはしっかり話を聞きましょう。ただ、毎回真剣に耳を傾けると、聞くほうも疲れてしまうので穏やかに受け流すのが理想です。話し終えたあとに優しい口調で「その話は何度か聞いたよ」と伝えれば、本人は自身の状態を認識できます。こうしたやり取りを繰り返すことで「話した内容」は忘れても、「自分が同じことを無意識に何度も話す状態にある」ことは自覚するようになります。人によっては自分から「この話は初めて?」と確認するようにもなり、同じ話が繰り返されることが減ったり、医療機関に相談に行くきっかけにもなることもあります。

