相模湾のタチウオ

相模湾のタチウオ

How to attach fishing bait

エサ巻きの手順の写真

エサ巻きの手順

「水深は100mです。反応は80~90mあたりに出てますよ」

相模湾平塚港・庄治郎丸の大堀耕史船長のアナウンスが飛ぶ。

船が港を離れてから、わずか10分足らず。

陸地が間近に見えるのに、急に深くなるのが相模湾の特徴だ。

「ひゃ、ひゃく!」

E2F取材班が悲鳴を上げる。

イチロウこと鹿島一郎さん、トモキこと板倉友基さん、そしてライターのタカハシゴーは、手巻きリールを使っているのだ。

150g前後のジグを、落とすのはいい。

やることと言えば、親指で両軸リールのスプールを軽く押さえてサミングするぐらいだ。

あとはボーッとしていても、ジグが勝手に海底目がけてまっしぐらに突き進んでくれる。

指示ダナをジグが通過するあたりでは、緊張感が増す。

タチウオはフォールするジグにアタックしてくるから気を抜けない。

シャクったりフォールさせたりという誘いも苦にはならない。

「タチウオこい!」「食え!」という期待感いっぱいだから、多少の重みなど何も問題ない。

だが、回収はツラい。

「はい、上げてくださ~い」という大堀船長のアナウンスに応じ、文字どおりに回収するだけだ。

リールを巻く、巻く、巻く。

それしかない。

ごくまれに回収中に青物がヒットすることもあるが、そうそう起こらない。

ただジグを手元に引き寄せるだけ。

リールを巻くだけだ。

タカハシゴーが使用していたリールは、シマノ・オシアカルカッタ300HG。

最大巻き上げ長は81cmである。

100mのPEラインを巻き取るためには、約120回もクルクルクルクルしなければならないのである。

いや、リールを巻く行為だって楽しい。

釣り人ならだれだって家でなんの気なしにリールをクルクルすることがあるだろう。

だが、10月30日の庄治郎丸・6号船の船上において、回収のためだけにリールを巻くのはちょっとツラかった。

なぜなら、E2F取材班の中にただ一人、電動リールを使っている男がいたからだ。

みんなが手巻きなら平等だ。

しかし一人だけ電動リールが交じると、急にネタミソネミヒガミの感情が沸き起こる。

涼しげな顔でキュイーンと電動リールを操作している男の名は、ヨッシー。

当コーナーの主役、吉岡進その人である。

釣り場の写真

当日のタチウオ船は2隻出しと盛況

ポイントは港近くながら水深100mと深い

船宿で禁じられていない限り、電動リールを使うも使わないも、個人の自由だ。

ヨッシーが電動リールを使ったって、なんら問題はない。

しかし、開始早々電動リールに手をかけたヨッシーの姿に、なんとなく釈然としないE2F取材班の面々である。

「プロは黙って手で巻いてこそプロだろうがよ……」

「プロだからこそ手巻きだよ」

「プロってのはよぅ……」

イチロウ、トモキ、タカハシゴーの3名がボヤく。

しかし、ことタチウオ釣りに関しては、電動リールのほうが釣果を上げることもままある。

庄治郎丸のタチウオ船は、テンビン、テンヤ、そしてジギングのすべてがOKというフリースタイルである。

E2F取材班を除く7名のお客さんは、テンビンとテンヤを思い思いに使い分けながら、フツーに電動リールを使用している。

逆に、手巻きリールに固執しているのはE2Fの3名ぐらいのものである。

大堀船長によると、相模湾のタチウオ釣りは20年以上前に一時的に大フィーバーしたことがあるが、本格的な釣り物として定着し、専門船を出すようになったのは3年ほど前のこと。

東京湾に比べると深場が中心だが、時期によっては浅場に群れが集まることもあるし、大型が交じることもある。

地理的に相模湾のほうが行きやすいお客さんを中心に、隠れた人気釣り物となっている。

この日も20名近くのお客さんを集め、2隻出しの盛況だった。

タチウオ釣りの名手として全国津々浦々で釣りまくっているヨッシーも、相模湾のタチウオと向き合うのは初めてだ。

「どんな釣りになるんだろうね」と、朝イチはジギングから開始。

「幅広いタナを素早く探れるし、魚の活性も分かる。ま、タチウオのヤル気チェックだね」とヨッシー。

6時25分の釣り開始から20分ほどで「食ったよ!」と叫んだ。

ヨッシー初の相模湾タチウオである。

「スローなワンピッチジャークで食わなかったからフォール主体のアクションに変えたらドスン!かわいめサイズだったけど、ヒットした瞬間のドスンはたまらないものがあるよね」

この成果をもってジギングを続けるのかと思いきや、なんとヨッシーは電動リールがセットされたジャッカルのテンヤタチウオ専用ロッド、プライザタチウオを手にしたのである。

「テンビンやテンヤで釣っている人たちに比べると、ジグへの反応が思いのほかよくなかったんだ。

やっぱりある程度は数を釣らないと、相模湾タチウオの傾向と対策も分からないしさ」

プロフェッショナルとしての選択であることを強調するヨッシー。

手巻きから電動リールへの変更は、なんとなく引け目を感じるものなのだ。

……こだわる必要はまったくないのだが、なんとなく……。

釣行の写真

相模湾の初タチウオはジギングで釣り上げた

配信元: FISHING JAPAN