強豪チームのルールは、子どもだけでなく、親にも過酷なものでした。親はボール拾いや声出しに奔走し、私語も禁止。周りの親たちがその状況を当然と受け入れている姿を見て、主人公は「私が間違っているのだろうか」と、自分の子育ての価値観に自信を失い始めます。
練習中、親も許されない「私語」
強豪チームに入部したはずが、そこに待ち受けていたのは、事前の確認とはかけ離れた過酷なルール。私は、日を追うごとに、このチームの常識に戸惑いを隠せなくなっていきました。
チームの練習は、子どもたちだけでなく、親たちにも厳しいルールが課せられていました。練習中、親はベンチに座ることが禁止。全員がマネージャーのような仕事ぶりを求められ、ボール拾いや、声出し、さらには私語も禁止されていました。
「声出せ!」
「もっと走れ!」
監督の指示により、親たちが四方八方から子どもたちに声をかけるんです。私は、そんな光景を見るたびに、これで本当にいいのだろうかと、疑問を抱かずにはいられませんでした。
私は、子どもにうるさく声をかけるよりも自分で考えさせる子育てを大事にしてきました。それなのに、ここでは、親も監督も、子どもたちを怒鳴り、型にはめるような指導ばかり。特に、練習に参加し始めたばかりの頃のハルは、周りの子たちについていくのに必死でした。ドリブルも、パスも、周りの子たちよりずっと下手。そんなハルに、監督は「もっと頑張れ!」「教えたとおりにやれ!」と、厳しい言葉をかけます。周りの親たちも、チームの足を引っ張りかねないハルに冷たい視線を送っているように感じました。
ある日、私は、他の保護者にそれとなく戸惑いを伝えてみました。
「このチームのルール、かなり厳しいですよね…」
周りの保護者が語る納得の理由
しかし、周りの親たちは、私の言葉に全く共感してくれませんでした。
「でも、チームのためだと思ってるよ」
「どこのチームも勝つために練習してるんだから、そこに勝つためには努力しないと」
「監督もああ見えて、子どものこと考えているんだよ」
周りの親たちは、みな監督の考えに納得しているようでした。まるで、私がおかしいのか、とさえ思うほど、みな熱心でした。そんな周りの親たちの様子を見て、私は「私が間違っているのかな…」と、わからなくなってきました。夫も「あまり無理しなくてもいいんじゃないか」と言ってくれますが、ハルがこのチームで頑張りたいと強く願っている手前、簡単に辞めさせることができませんでした。
夫は、「ハルがサッカーを楽しめることが大事。チームにこだわる必要はないよ」と言ってくれました。夫の言葉に、私は少しだけ心が軽くなりました。そうだ。まだ小学1年生なんだ。サッカーの楽しさを忘れてほしくない。
しかし、私が本当に知りたいのは、このチームのルールが、本当に子どもたちのためになっているのかどうか。私は、このまま続けていいのか、それとも辞めるべきなのか、答えが出ないまま、毎日を過ごしていました。
そんな中でも、ハルはめげることなく、毎日サッカーボールを追いかけていました。貴重な練習オフの日でさえ、日が暮れるまで公園でドリブルの練習をしたり、壁に向かってパスの練習をしたり。早く活躍したいハルの強い気持ちが伝わってきました。

