農薬を吸い込んだ時に現れる症状とは?メディカルドック監修医が農薬を吸い込んだ時に現れる症状・対処法・応急処置・対策などを解説します。気になる症状は迷わず病院を受診してください。

監修医師:
山本 祥寛(医師)
小児から老年、内科から外科、軽症から重症問わず診療可能なEmergency physicianを目指し、診療に努めている。日本救急医学会救急科専門医、臨床研修指導医の資格を有する。
農薬を吸い込んだ時に現れる症状
農薬は、農業や園芸において害虫や雑草を防ぐために欠かせません。一方で、正しく使わなければ健康を害することがあります。農薬を飲み込んだり吸い込んだりすると、体に害を及ぼす可能性があるため注意が必要です。農薬には様々な種類があり、その中でも問題となる可能性が高いのは、一般的に使用される殺虫剤、除草剤が代表的な農薬です。飲み込んだり吸い込まないようにする予防が特に重要ですが、万が一、農薬に飲み込んだり吸い込んだりしてしまった場合に、どのような症状が出るのかを知っておくことも大切です。本記事では、中でも中毒を起こしやすい有機リン系、カーバメート系、グリホサート系、中毒になりづらいですが身近なピレスロイド系、特に致死的となるパラコート系のそれぞれの中毒について述べていきます。
有機リン中毒で現れる症状
日本では毒性の高い有機リン製剤は製造禁止となっているので、故意に使用するなど以外では重症になり辛いです。しかしながら、様々な害虫に有効なので、現在でも世界的に使用されていて、身近な物だけに注意が必要です。
症状としては、ムスカリン様症状、ニコチン様症状、中枢神経症状に大別されます。
ムスカリン様症状:縮瞳(瞳孔が小さくなる)、徐脈、流涙、流延(唾液が増える)、下痢、嘔気、発汗、喀痰の増加、気管支攣縮(気管支が狭くなる→呼吸がしにくくなる)
ニコチン様症状:散瞳、頻脈、高血圧、脱力、横隔膜不全(呼吸がしにくくなる)など
中枢神経症状:頭痛、めまい、錯乱、意識低下、呼吸不全(呼吸がしにくくなる)、痙攣など
大まかに、涙や唾液・痰が増え、呼吸がしづらくなり、さらに酷いと意識が悪くなる、という症状になります。
受診前で出来ることは限られますが、身体についた農薬を水道水で洗う、汚れた衣類などを脱ぐ、密室なら換気を行う、密室から移動するなどが有効です。これらの処置は、どの農薬でもおおむね共通です。
吸い込んだり飲み込んだりすることで有機リン中毒を来します。農薬による症状は、いわば中毒症状です。中毒は救急科が診療することが多いです。最寄りの医療機関に問い合わせることが望ましいでしょう。赤字部分の症状がある際には速やかに医療機関への受診を検討してください。症状の程度によっては救急要請も検討する必要があります。
カーバメート中毒で現れる症状
殺虫剤として全世界で使用されています。症状は有機リンと似ていて、カーバメートの方が、比較的軽症で済みやすいとされます。
受診前の対処は、有機リン系薬剤と同じです。
使用薬剤が分かっていればカーバメート中毒と分かりやすいですが、有機リンと症状が似ているため、判断が難しいこともあります。
農薬の副作用という性質上、救急医のいる医療機関へ受診しましょう。有機リンと同じように、赤字部分の症状がある際には速やかな医療機関受診や、症状が重ければ救急要請も検討する必要があります。
グリホサート中毒で現れる症状
土に残っても有害となりづらいなど環境に優しい製剤とされていて、全世界で使用される家庭用除草剤です。成分には界面活性剤(洗剤の主成分)も含まれています。
吸い込むと、気道粘膜刺激症状(喉の痛み、咳など)が出ます。
少量飲み込んでも重大な毒性はないですが、問題になるのは故意に大量摂取した場合(85ml以上)です。大量なら、胃腸の粘膜が強く傷付き、酷い脱水、酷い脱水から起る肝障害、腎障害などを起こす方もいます。時には、界面活性剤が含有されていることによる急性呼吸窮迫症候群(ARDS,詳細は後述)という、肺が酷く傷んだ状態になることもあります。症状の程度は無症状から、軽症(吐き気、下痢、喉の痛み)、中等症(胃腸の炎症や出血、肝障害、腎障害、低血圧)、重症(高度な低血圧、痙攣、昏睡、心停止)まで様々です。
少量飲み込んだ場合は軽症が殆どですが、症状がある場合には医療機関への受診が望ましいでしょう。また、仮に大量に飲み込んだ場合でも初期は症状が出揃わない場合があり、重症化することもあるため、高度医療機関への受診が必要です。
ピレスロイド中毒で現れる症状
蚊取線香の成分です。毒性は弱く、ヒトでの中毒は稀です。嘔気や唇、舌のしびれ、くしゃみ、咳嗽、過敏症状(アレルギー症状)が出ることもあります。大量に飲み込んだ場合は痙攣、意識低下を来しますが、1枚飲み込んだ程度では特別な処置はいりません。強いアレルギー症状が出ていれば、アレルギー症状自体の治療が必要です。
煙を吸い込んだり、煙が目に入って症状があれば、目や口の中を水道水で洗った上で、蚊取り線香を消しましょう。
パラコート中毒現れる症状
中毒となると重篤化しやすいと言われています。現在は濃度の高い製剤は発売されていませんが、濃度の低い製剤はまだ発売されています。飲み込むことで中毒になりやすいですが、皮膚や眼、鼻、喉などの粘膜からの吸収で中毒になり得るので、注意が必要です。当初は蛋白尿(尿の泡立ち)、血尿、肝障害、腎障害から始まり、進行性の肺線維症(肺の組織が硬くなり、呼吸しづらくなる)、糸球体腎炎(腎臓の組織に炎症が生じる)を来します。
受診前に出来る処置は乏しく、速やかに高度医療機関への受診をしましょう。ただし、有効な治療法は確立していません。正しく使用して、飲み込んだり吸い込んだりしないことが最も大切です。
農薬を吸い込むことでどんな後遺症が現れる?
後遺症は薬剤によりますが、ここでは代表的な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肝障害・腎障害、神経症状を挙げて説明します。いずれも、受診前で出来ることは限られますので、近隣ないし高度医療機関への受診をしましょう。
ARDS/急性呼吸窮迫症候群
ARDSは、肺炎や中毒、酷い怪我などをきっかけに起こる致命的な肺障害です。特効薬はなく、きっかけとなった病気を治療しながら、対症療法を行う他ありません。時には肺が繊維化して硬くなり、慢性的な呼吸がしづらくなります。受診前では行える処置が限られますので、速やかな病院受診が望ましいです。似た疾患として、化学性肺炎(異物や農薬を吸い込むことで起こる肺炎)があります。
肝障害、腎障害
毒物や薬剤使用後に起こり得ます。倦怠感のほか、肝障害は黄疸(皮膚の黄ばみ)など、腎障害は尿の泡立ち、尿が少なくなるなどの症状がありますが、目立たないこともあります。
遅発性神経症状
遅れて症状が出る場合もあります。認知機能低下(認知症のような症状)、運動障害(四肢の動かしづらさ)、知覚障害(四肢の感覚がおかしいなど)、意識低下を起こす可能性もあります。初期に受診した医療機関や、神経内科への受診を検討しましょう。

