脳梗塞の発症には、血圧や血糖、脂質などの慢性的な異常が深く関係しています。特に高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などは主要なリスク要因です。本章では、それぞれの基礎疾患が脳血管へ与える影響と、予防のための管理ポイントを紹介します。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
脳梗塞と関連する基礎疾患
脳梗塞の発症には、背景となる基礎疾患が深く関与しています。これらの疾患を適切に管理することが、脳梗塞予防の中心となります。ここでは主要な基礎疾患とその影響について説明します。
高血圧と脳梗塞
高血圧は脳梗塞における重要な危険因子です。血圧が高い状態が続くと、血管壁に持続的な負荷がかかり、動脈硬化が進行します。特に細い血管が障害されやすく、ラクナ梗塞の主な原因となります。血圧は診察室血圧140/90mmHg以上、または家庭血圧135/85mmHg以上が高血圧の基準とされますが、脳梗塞予防の観点からはより厳格な管理が求められる場合があります。
糖尿病と脂質異常症
糖尿病は血管内皮を傷つけ、動脈硬化を加速させます。血糖値が高い状態が続くと血管壁が脆くなり、血栓ができやすくなります。また、糖尿病の方は神経障害を合併しやすく、脳梗塞の初期症状を自覚しにくい傾向があります。脂質異常症は血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が増加し、HDLコレステロールが減少する状態であり、動脈硬化の進行を促します。
心房細動と心疾患
心房細動は心臓の拍動が不規則になる不整脈であり、心房内に血液が停滞して血栓ができやすくなります。この血栓が脳へ飛ぶと心原性脳塞栓症を引き起こします。心房細動は加齢とともに増加し、80歳以上では約10%の方に認められるとされています。動悸や息切れ、胸の違和感などの症状がある場合は早期に循環器内科を受診し、心電図検査を受けることが重要です。
まとめ
脳梗塞は突然の発症により生活の質を大きく損なう疾患ですが、その多くは予防可能な要因によって引き起こされます。初期症状や前兆を正しく理解し、万が一の際には迅速に行動することが救命と後遺症軽減の鍵となります。片側の麻痺やろれつが回らないといった典型的な症状だけでなく、一過性脳虚血発作のような短時間で消失する症状も重要な警告サインです。FASTによる簡易チェック法を知っておくことで、ご家族や周囲の方も早期発見に貢献できます。
また、高血圧や糖尿病、脂質異常症、心房細動といった基礎疾患の管理、禁煙や適度な運動、バランスの取れた食生活など、日常の積み重ねがリスクを大幅に低減させます。年齢や性別、家族歴といった変えられない要因があっても、生活習慣の改善によってリスクをコントロールすることは可能です。定期的な健康診断を受け、自身の身体の状態を把握することも重要です。
気になる症状がある場合は、早めに内科や神経内科、脳神経外科を受診し、専門医の診察を受けることを推奨します。本記事で紹介した情報は一般的な知識であり、個別の診断や治療に代わるものではありません。脳梗塞の予防と早期発見には、正確な知識と日々の実践、そして専門医との連携が不可欠です。
参考文献
厚生労働省「脳梗塞・くも膜下出血・心筋梗塞・不整脈など
厚生労働省 – 循環器疾患の現状と対策日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン」
日本循環器学会「循環器病ガイドライン」
