近年、日本では梅毒の患者さんが増加しています。梅毒は有効な薬があるため、早期に治療を行えば治ることが期待できますが、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。また、梅毒は気付きにくく、ほかの病気と見分けることが難しい病気です。本記事では、梅毒のなかで唇に焦点を当て、症状、ほかの病気との見分け方や治療法を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
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梅毒の基礎知識

梅毒とはどのような病気ですか?
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌が引き起こす感染症です。梅毒は、さまざまな全身の症状を引き起こし、治療の遅れが重大な合併症をを引き起こすこともあります。一方で、有効な薬で適切に治療をすれば症状の改善が期待できます。
梅毒の原因と感染経路を教えてください
梅毒の原因は、梅毒トレポネーマという細菌です。主に性的な接触によって感染します(性感染症)。梅毒トレポネーマに感染すると、皮膚や粘膜に潰瘍(かいよう)や発疹(ぶつぶつ)などがみられるようになります。これらの潰瘍や発疹には梅毒トレポネーマがたくさん存在しており、この部分の性的な接触によって人から人へ感染します。
具体的には、陰茎や膣(ちつ)、肛門、お口などの粘膜どうし、あるいは粘膜と皮膚どうしが直接触れる性的な接触(性交、オーラルセックス、アナルセックスなど)でうつります。また、そのほかの感染経路として、母子感染があります。妊婦さんが梅毒に感染すると、胎盤を通じておなかの中の赤ちゃんにも感染する場合があり、これを母子感染と呼びます。
梅毒は唇から感染することはありますか?
梅毒は、唇から感染することもあります。感染した方の性器などにある梅毒の病変部や分泌液が、お口の粘膜や唇に触れることで感染します。また、お口の中や唇の病変が、性器や唇に接触することで、感染することもあります。
梅毒で唇に現れる症状と原因

初期の梅毒になると唇にはどのような症状が現れますか?
梅毒の初期はⅠ期といわれ、梅毒に感染してからおおよそ3週間前後で症状が現れます。唇やお口の中に現れる症状には、小さなしこりや潰瘍(かいよう)が挙げられます。しこりはコリコリとしており、しばしば、軟骨のように硬い、と表現されます。痛みはあまりありません。このしこりは初期硬結(こうけつ)と呼ばれるもので、やがて周囲が盛り上がり中心に潰瘍を形成することがあります。潰瘍は、ただれて深い傷のようになっている病変を指します。これを硬性下疳(こうせいげかん)と呼びます。
梅毒が進行すると唇はどのようになりますか?
治療せずに梅毒が進行する場合、経過によって唇にさまざまな症状が現れます。感染から約3ヶ月が経つと、Ⅱ期となります。この時期にみられるお口や唇の病変には、扁平(へんぺい)コンジローマがあります。これは、平たく盛り上がった病変で、細菌をたくさん含んでいます。陰部にみられることが多いですが、お口やわきの下などにもみられます。
そのほかのお口の病変には、粘膜斑があります。粘膜斑はややふくらんでおり、青みがかったような白色、もしくは灰色で、周囲は薄い赤色をしています。通常は、お口の中や喉の奥などの粘膜に出現します。
その後、さらに病状が進行しⅢ期になると、ゴム腫が発生する可能性があります。やわらかいゴムのような膨らみで、頭、顔、体幹(胸、お腹、背中)などさまざまな部位にみられ、ほぼすべての臓器に発生する可能性があるとされています。ただし、現代ではⅢ期まで進行するのは稀だとされています。
梅毒の唇の症状と似ているほかの病気はありますか?
梅毒は、偽装の達人とも呼ばれるほどさまざまな症状がみられ、ほかの病気とよく似た見た目や経過をとることがあります。梅毒と間違えやすい代表的な病気を説明します。
まず挙げられる代表的なものが、単純ヘルペスウイルス感染症です。お口の周囲や陰部に小さな水ぶくれや潰瘍が現れる病気です。見た目で区別することは難しいくらい、梅毒と症状が似ています。ただし、ヘルペスによる水ぶくれは強い痛みを伴うのが特徴的です。一方、梅毒のⅠ期では痛みを伴わないことが多いとされています。
次に挙げられるのが、軟性下疳(なんせいげかん)です。細菌による性感染症で、潰瘍がみられます。主に陰部に発生しますが、お口にみられることもあります。軟性下疳は強い痛みを伴います。痛みがあるため、梅毒のように発見が遅れることは少ないとされています。
また、尖圭(せんけい)コンジローマもしばしば梅毒と似た症状を呈します。これは、ヒトパピローマウイルスによる感染症です。小さなイボ状の病変が、陰部や肛門の周囲にみられることが多いですが、お口の中や唇にみられるケースがあります。通常、痛みは伴いません。梅毒のⅡ期にも扁平コンジローマといわれるイボのような病変をつくり、見た目が似ているのでしばしば混同されます。
梅毒で唇に症状が現れる原因を教えてください
梅毒で唇に症状が現れる原因は、梅毒トレポネーマが、侵入した感染部位で病変を形成するためです。梅毒トレポネーマは、侵入した場所で初期症状が出るため、感染経路によって症状の現れる部位が異なります。唇に症状が現れるのは、主にオーラルセックスやキスなど唇から病原体が体内に入ったためです。

