【国宝】「源氏物語絵巻」10年ぶりの全点公開!徳川美術館90周年記念展の見どころと国宝の歴史

なぜ特別なのか?国宝「源氏物語絵巻」唯一無二の魅力

徳川本・五島本、そして断簡の「全点」が集結

現存する国宝「源氏物語絵巻」は、尾張徳川家伝来の徳川本と、阿波蜂須賀家を経て五島美術館が所蔵する五島本に大別されます。

本展では、この二つの国宝に加え、所在不明の2点を除くすべての断簡(9点中7点)が一堂に公開されます。平安時代から奇跡的に伝来した絵巻の「現存するすべて」を見ることができる、またとない機会です。

国宝「源氏物語絵巻」竹河(二)徳川美術館蔵詞書の後ろに、その内容に呼応する絵をつないだ絵巻。右から左へ見る。 国宝「源氏物語絵巻」竹河(二)徳川美術館蔵

「源氏物語絵巻」現存一覧表「源氏物語絵巻」現存一覧表

「形を変える国宝」の数奇な運命

国宝「源氏物語絵巻」の歴史は、保存のための修復と改変の歴史でもあります。
五島本は昭和初期に、保存のため巻子装から絵と詞書を分離し台紙に貼り付ける「額装」に改装されました。一方、徳川本も同様に額装に改装されましたが、約80年後、台紙の反りによる損傷が判明。保存上の安全と鑑賞方法の両面から検討され、文化庁の承認を得て再び平安時代と同じ「巻子装」へと改装されました。

現在、国宝「源氏物語絵巻」は「巻子装の徳川本」と「額装の五島本」という異なる二つの姿で鑑賞できます。この異なる形となった国宝を同時に鑑賞できるのは、本展の最大のハイライトの一つ。国宝が歩んだ数奇な運命を感じ取ることができます。

徳川本の形状変遷徳川本の形状変遷

よみがえる平安の色彩「平成復元模写」

国宝 源氏物語絵巻 関屋 絵 平安時代・12世紀 徳川美術館蔵国宝 源氏物語絵巻 関屋 絵 平安時代・12世紀 徳川美術館蔵

源氏物語絵巻 関屋 絵(復元模写) 加藤純子筆 平成17年(2005) 徳川美術館蔵源氏物語絵巻 関屋 絵(復元模写) 加藤純子筆 平成17年(2005) 徳川美術館蔵

900年の時を経て、絵巻の色彩は変色や褪色、絵の具の剥落が見られます。この失われた美しさを現代によみがえらせるために、最先端の科学技術分析と学術調査をもとに、現代の画家が緻密な作業を重ねたのが「平成復元模写事業」です。復元模写では、平安の王朝人が目にしたであろう鮮やかな色彩や、光の加減で輝きを変える銀の装飾が再現されています。オリジナルと復元模写を見比べることで、絵巻が持つ本来の輝きと、当時の美意識を深く理解することができるでしょう。

感情が交錯するドラマ!絵巻が描く『源氏物語』の核心

2つの不義密通をめぐる物語

国宝 源氏物語絵巻 柏木(三)絵 徳川美術館蔵国宝 源氏物語絵巻 柏木(三)絵 徳川美術館蔵

国宝 源氏物語絵巻 鈴虫(二)絵 五島美術館蔵国宝 源氏物語絵巻 鈴虫(二)絵 五島美術館蔵

徳川本と五島本が一堂に会することで、物語の核心である第36帖「柏木」から第40帖「御法」までの場面が通しで揃います。

この中には、光源氏の人生を大きく揺るがす「不義密通」にまつわる重要な場面が絵画化されています。例えば「柏木(三)」の場面では、妻・女三宮と甥・柏木の密通によって生まれた赤子の薫を光源氏が抱いています。光源氏はその事実を知りながら、あくまで我が子として抱くことで、父としての慈しみと深い苦悩が交錯する瞬間が描かれています。
また、「鈴虫(二)」の場面では、光源氏が冷泉院と向かい合いますが、冷泉院は若き日の光源氏が藤壺中宮との密通によってもうけた実子です。互いに真実を口にすることはないまま、血のつながりと秘められた罪、静かな情愛が象徴的に表現されています。

人物の表情に込められた「引目鉤鼻」の美意識

国宝 源氏物語絵巻 宿木(三)絵(部分) 徳川美術館蔵国宝 源氏物語絵巻 宿木(三)絵(部分) 徳川美術館蔵

絵巻の登場人物の顔は、「引目鉤鼻(ひきめかぎばな)」という、目を細い線、鼻を「く」の字形で表す独特の様式で描かれています。

一見、無表情に見えるこの描写ですが、実際には細い線を重ねて瞳の位置を示すなど繊細な工夫が凝らされ、わずかなニュアンスが付けられています。あえて強い個性を表現しないことで、鑑賞者がそれぞれの感情を想像し、感情移入しやすくなるという、平安王朝独自の美意識がそこに凝縮されています。

巻子装で体感する「絵と物語の響き合い」

国宝 源氏物語絵巻 横笛 徳川美術館蔵 右が詞書、左が絵。詞書の黒い部分は経年劣化で黒変した銀の装飾。 国宝 源氏物語絵巻 横笛 徳川美術館蔵 右が詞書、左が絵。詞書の黒い部分は経年劣化で黒変した銀の装飾。 

巻子装へと戻された徳川本によって、平安の人々が親しんだ絵巻本来の楽しみ方が体感できるようになりました。

絵巻は右から左へと展開し、まず金銀の輝きを散らした豪華な料紙(りょうし)を用いた美しい詞書(ことばがき)があり、続いてその内容に呼応する絵が現れます。詞書と絵が一体化することで、ひとつの世界観が完成するのです。改装に伴い新調された見返しや、人間国宝の手による螺鈿(らでん)の軸首など、細部にわたる工芸美も必見です。

配信元: イロハニアート

提供元

プロフィール画像

イロハニアート

最近よく耳にするアート。「興味はあるけれど、難しそう」と何となく敬遠していませんか?イロハニアートは、アートをもっと自由に、たくさんの人に楽しんでもらいたいという想いから生まれたメディアです。現代アートから古美術まで、アートのイロハが分かる、そんなメディアを目指して日々コンテンツを更新しています。