全国約2600の会員を擁する「全日本病院協会」。その新会長に就任した神野正博氏が、人口減少時代における中小民間病院の厳しい現実と、それでも前を向く経営哲学を語りました。「経済予測と違って人口予測は基本的に当たる」。この冷徹な事実を前に、地域医療を支える中小病院はどう生き残りを図るべきか。30年の経営経験と革新的な取り組みから導き出された、具体的かつ実践的な解決策にメディカルドックが迫りました。

監修医師:
神野 正博(全日本病院協会会長)
社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長。1995年から病院経営に携わり、日本初となる医療機関でのSPD導入、PHS導入、クレジットカード決済、院内コンビニ併設など、他業界の手法を医療に積極的に取り入れてきた革新的経営者。2024年1月の能登半島地震では被災地の医療支援に尽力し、全国キー局のテレビ出演も多数。2024年6月28日、全日本病院協会会長に就任。日本ホスピタルアライアンス(NHA)という共同購入組織を立ち上げるなど、中小病院の経営改善にも尽力。「明るく楽しく前向きに(ATM)」がモットー。
全日本病院協会とは—— 2600の中小民間病院が集う、経営者たちの砦
編集部
はじめに、全日本病院協会について教えてください。
神野会長
現在、会員数は約2600まで増加しており、順調に拡大しています。医師会との大きな違いは、医師会が医師個人を会員とするのに対し、我々は病院そのものが規模に関わらず1会員となる点です。全日本病院協会は、主に中小民間病院が集まる団体です。ただし、公立病院の大規模施設も加盟しており、純粋な民間病院だけの組織ではありません。ほかの病院団体と比較すると、医療法人協会は医療法人に限定され、日本病院会は国公立・公的病院が多く加盟しているという特徴があります。
編集部
民間病院の経営者は、どんな特徴があるのでしょう?
神野会長
我々の会員は、真の意味で経営に責任を持つ人々です。民間病院が主体ですから、理事長や院長は借り入れ時に個人保証を求められ、返済の重い責任を背負います。返済不能となれば、倒産か廃業という苦渋の決断も迫られる。そうした覚悟を持った経営者が集まる組織なのです。2040年問題—— 「経済予測と違って人口予測は基本的に当たる」
編集部
人口減少が医療に与える影響をどうお考えですか?
神野会長
経済予測と違い、人口予測は基本的に外れません。だからこそ、確実に対応する必要があるのです。人口減少はマーケットの縮小を意味し、地方ではその影響がより顕著に現れます。興味深いのは、国民医療費が毎年1兆円増加している一方で、病院経営は赤字に苦しんでいることです。高齢化により医療需要は増えているはずなのに、パラドックスが生じているのです。
編集部
医療費は増えているのに赤字の理由にはどんなことが考えられるのですか?
神野会長
問題の本質は、収益からコストを差し引いた利益にあります。物価高騰と賃金上昇でコストが急上昇しているため、いくら医療の量が増えても、利益がマイナスなら結果もマイナスになってしまうのです。診療報酬の引き上げという議論も出ていますが、行政は価格を上げる代わりに量を絞る可能性が高い。総医療費を抑制しようとする力学が働くからです。
編集部
病院の統廃合も避けられないということでしょうか?
神野会長
統廃合は選択肢の一つです。しかし我々は、集約だけでなく戦略的撤退や業態転換も含めて、あらゆる可能性を検討すべき段階にきています。
