医療ツーリズムより現実的な「ふるさと納税型」医療支援
編集部
医療ツーリズムについて神野会長のご意見をお聞かせください。
神野会長
医療ツーリズムの収益貢献度は限定的です。通常の病院には1日800〜1000人の患者さんが来院しますが、医療ツーリズムでそれだけの集客は不可能です。単価が高くても全体への影響は薄いのです。タイのバムルンラード病院のような医療ツーリズム専門施設と、日本の地域医療を担う病院では、そもそも土俵が違います。我々はまず日本国民のための医療を確立すべきです。
編集部
では、新たな収益源として何が考えられますか?
神野会長
寄付金税制の活用に注目しています。能登半島地震ではクラウドファンディングで多くの支援をいただきましたが、寄付者への税制優遇がありませんでした。社会医療法人や持ち分なし医療法人への寄付に、ふるさと納税と同様の全額控除制度を導入できれば、新たな資金調達の道が開けます。
編集部
返礼品なども考えられますか?
神野会長
健診の割引券などを返礼品として提供することも可能でしょう。地域医療を支える新たな仕組みとして、大きな可能性を秘めています。編集部
診療報酬改定についてはどうお考えですか?
神野会長
2年ごとの診療報酬改定に一喜一憂する業界体質から脱却すべきです。2年後、4年後の見通しが立たない不透明な業界に、誰が希望を持てるでしょうか。銀行も融資を躊躇します。国の裁量一つで赤字にも黒字にもなる。こんな不安定な経営環境はほかに例がありません。
編集部
安定した経営の見通しが必要ということですね。
神野会長
物価や賃金にスライドする明確なルールが必要です。上昇時は診療報酬も上げ、下降時は下げる。そうした予測可能な制度設計が求められます。30年間のデフレ時代とは異なる、インフレ時代の新たな枠組みが必要なのです。「復活プロジェクト」—— 地域の健康を足元から支える
編集部
現在取り組んでいる健康支援事業について教えてください。
神野会長
「復活プロジェクト」「Foot活」という語呂合わせで、足の健康づくりに取り組んでいます。センサー付きのベルトを装着して10m歩くだけで、歩行の癖やバランスをAIが解析し、可視化します。多くの方が左右のバランスの悪さや、かかと重心・つま先重心といった癖を持っています。かかと重心は転倒リスクが高く、つま先重心は安定します。こうしたデータに基づいて歩くことの楽しみの復活や転倒予防プログラムを提供しています。
編集部
地域の反応はいかがですか?
神野会長
非常に好評です。公民館などに出向いて、ワンコイン(500円)で歩行解析をおこない、改善体操を指導しています。「見える化」により、参加者の健康意識が大きく変わりました。出前講座の依頼も増えており、地域の健康づくりに確かな手応えを感じています。編集部
今後の展望についてもお聞かせください。
神野会長
病院のあり方に関する報告書作成を、若手病院経営者に全面的に委ねる準備を進めています。委員会メンバーを刷新し、次世代の視点で未来を描いてもらいます。私の世代の発想には限界があります。若い世代は、我々が想像もつかない革新的なアイデアを持っているはずです。その可能性に期待しています。
編集部
対応型ではなく提案型を目指すということですね。
神野会長
まさにその通りです。厚生労働省の方針に対応するだけでなく、我々から2040年、2060年の医療ビジョンを提示したい。強い決意を持っています。国民向けのYouTube番組の制作も検討中です。3分程度の短い動画で、わかりやすく医療の現状と未来を伝えていきたい。国民との対話こそが、医療改革の第一歩だと信じています。

