性犯罪や虐待…被害にあった子どもの「司法面接」 法改正から2年、浮上した課題とは 識者に聞く

性犯罪や虐待…被害にあった子どもの「司法面接」 法改正から2年、浮上した課題とは 識者に聞く

●近しい大人が言うことを自分の記憶や体験より信頼しがち

──やはり子どもは大人に比べ、記憶や供述が誘導されやすいのでしょうか。

就学前の子どもは「客観的事実」という概念を十分には理解していないという研究があります。その概念を持つのは、通常は6歳くらいになってからです。体験した出来事を自分の思い出として保持する記憶を「自伝的記憶」というのですが、小学校を卒業するくらいの年齢でようやくこれが完成するのです。

そして子どもは大人に守られて生きているため、親などの近しい大人が言うことを自分の記憶や体験より信頼しがちです。たとえば、子どもは聴取者に「昨日はどこに行ったの?」と質問され、記憶がない場合でも、横にいる親が「プールに行ったでしょう」と言えば、すぐに「うん、プールに行った」と答えてしまうのです。

──司法面接で録取された子どもたちの供述には、内容的におかしいものもあるのでしょうか。

「この被疑者は冤罪ではないか」と思うケースもあれば、「この被疑者は冤罪ではないにしても、子どもが供述する被害内容は真実ではないのではないか」と思うケースもあります。

たとえば、「教室でクラスのみんながいる時に、先生にふとももを触られました」という子どもの供述を見た時は、本当にそんなことをするのだろうかと思いました。

イギリスでは、「聴取を行う捜査官」は専門的な研修を受ける必要があり、「現場で犯人を追う捜査官」とは区別されています。日本では、被疑者を起訴する検察官が自ら聴取も行うので、子どもの供述をコントロールしてしまいがちなのだと思います。日本の捜査機関も聴取については、専門家を置く必要があると思います。

●性被害では、心のケアをする際に記憶が書き換えられてしまうことも…

──そのほかに司法面接の現状で検討が必要な問題は何かあるでしょうか。

性被害については、子どもの被害者に限ったことではないですが、被害に関する聴取だけではなく、心のケアもしないといけません。しかし、この心のケアの際、記憶が書き換えられてしまうことがあります。

心のケアを行うのはセラピストや臨床心理士、精神科医などですが、被害者の言うことを否定せず受け止め、前向きな気持ちになるような手法が多く用いられます。その手法で被害者から被害の話を聞くと、実際に経験したことと違う話になってしまう可能性が決して小さくないのです。

──そういう問題には、どのように対処すればよいのでしょうか。

被害者が心のケアを受ける前にちゃんとした聴取を受ける仕組みづくりが重要です。心のケアを受ける前に被害について聴取されるのは辛いですが、あとでまたクドクドと事件のことを聞かれると、かえって辛い思いをします。そうならないように最初に被害の証拠をしっかり固めておくのが正しいやり方だと思います。

【取材協力】
高木光太郎(たかぎ・こうたろう)
青山学院大学社会情報学部教授。供述心理学者。所属学会は日本心理学会、日本発達心理学会、法と心理学会など。供述鑑定を手がけた事件は、前川彰司さんが今年、再審で無罪になった福井女子中学生殺害事件、原口アヤ子さんが3度再審開始決定を受けながらすべて取り消される異例の展開となっている大崎事件など多数。著書に「証言の心理学」(中公新書)など。

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