文化と経済、そして「押し付け」の印象がブームを冷やした
しかし、ブームは長く続かず、一過性の話題として沈静化しました。その背景には、以下の三つの大きなハードルがありました。
まず「文化的な抵抗」があったこと。多くの日本人にとって、昆虫食は食文化としてなじみがなく、当初の好奇心から消費者の購買意欲は急速に冷めました。
次に、経済的なハードルが挙げられます。コオロギの飼育には専門知識とコストがかかり、採算が合わないケースが続出しました。実際、。2024年にはコオロギ食関連企業の倒産が相次いでおり、コオロギ食の普及をリードしていたスタートアップ企業の一つが、先行投資の負担などから2025年1月に破産開始決定を受けました。
さらに、健康への懸念も。コオロギの成分がエビやカニなどの甲殻類と類似していることから、アレルギーによる交差反応の可能性が指摘されていました。しかし、ブームの初期にはこのリスクに関する情報が十分に行き渡らず、消費者の間で漠然とした「安全性への不安」が広がり、購入をためらう大きな要因の一つとなりました。
特に拒否感につながったのは、政治的論争による「押し付け」の印象でしょう。政治家による啓発的な行動や昆虫食への取り組みが大きく報道されることで、一部の消費者には「強制されている」「食べさせられそうになった」「陰謀だ」という印象を抱き、SNS上での強い批判を生みました。これが、消費者の好奇心から嫌悪感へと急速に転じる大きな一因となり、急速にブームを冷ます結果となりました。
コオロギ食の「現在地」は?
さて、コオロギ食の現在地ですが、「ブームはほぼ終了している」で結論づけてよさそうです。
国内ではブームが落ち着いた一方で、タイなど昆虫食が文化として根付く国では、調理法の進化などにより「第二次ブーム」が起きていると報じられています。日本も、こうした海外の成功事例から学び、国際的な技術交流を進めることで再度コオロギ食が日の目をみることがあるのかもしれません。

