近年の研究により、糖尿病と認知症には深い関わりがあることがわかっています。じつは、まだ糖尿病と診断されていない「予備軍」の段階でも、認知症のリスクが高まる可能性があるのです。その理由と予防のヒントについて、永島メディカルクリニックの永島先生に詳しく教えてもらいました。

監修医師:
永島 秀一(永島メディカルクリニック)
2001年山梨大学医学部卒業。自治医科大学附属病院のほか、地域中核病院や内科クリニックで勤務し、この間に自治医科大学大学院を修了。自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科准教授を経て現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科(内科)専門医・研修指導医、日本動脈硬化学会評議員。
糖尿病はなぜ認知症リスクが高い?
編集部
糖尿病だと認知症になりやすいというのは本当ですか?
永島先生
はい。認知症にはさまざまな種類がありますが、日本において最も患者数が多いのは「アルツハイマー型認知症」、次が「脳血管性認知症」です。糖尿病はこれらと非常に関連が深く、研究により糖尿病の人はそうでない人と比べて、アルツハイマー型認知症に1.5倍なりやすく、脳血管性認知症に2.5倍なりやすいことがわかっています。
編集部
なぜ糖尿病と認知症が関係するのですか?
永島先生
高血糖状態が続くと血管が傷つき、脳の血流が悪化します。また、インスリンが効きにくくなった状態のことを「インスリン抵抗性」と言いますが、これが起きると脳の炎症や神経細胞の機能低下が引き起こされるとも言われています。こうした複合的な要因で、認知症のリスクが高まるのです。
編集部
血糖コントロールが良好でもリスクはあるのですか?
永島先生
血糖値をしっかり管理していれば、認知症の発症リスクは下げられます。ただし、糖尿病に伴う高血圧や脂質異常症などの生活習慣病も認知症に影響するため、全体的な健康管理が重要になります。
編集部
糖尿病の初期でも注意が必要なのでしょうか?
永島先生
糖尿病と診断された時点で、すでに脳においてなんらかの変化が始まっていることもあります。糖尿病の症状が軽くても、できるだけ早期からの血糖管理と予防意識が認知症のリスクを下げるカギになります。
糖尿病患者だけでなく、糖尿病予備軍も要注意
編集部
「境界型糖尿病」とは具体的にどんな状態ですか?
永島先生
境界型糖尿病とは、空腹時血糖やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の数値が正常より高いが、糖尿病の診断基準には満たない状態のことをいいます。「糖尿病予備軍」や「前糖尿病」とも呼ばれ、将来糖尿病に進行するリスクが高いとされています。
編集部
境界型糖尿病でも認知症のリスクが高いのですか?
永島先生
はい。最新の研究では、境界型糖尿病の段階でも認知機能の低下リスクが上昇することがわかっています。HbA1cが6.0~6.4%の糖尿病予備軍は、HbA1cが正常(5.6%未満)の人に比べて、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが1.30倍に上昇したということが報告されています。
編集部
糖尿病の症状がなくても問題になるのですね。
永島先生
境界型糖尿病の多くは自覚症状がありません。しかし、脳や血管では静かに変化が進行している可能性があります。境界型糖尿病のうちに生活改善を始めれば、糖尿病も認知症も予防しやすくなります。
編集部
境界型糖尿病かどうかはどうやってわかりますか?
永島先生
健康診断の血液検査で血糖値やHbA1cで判断できます。空腹時血糖が100〜125mg/dL、またはHbA1cが6.0〜6.4%の範囲にあると、境界型糖尿病とされます。健診で「ちょっと高め」と言われたら要注意です。

