ようやく母の気持ちがわかった
ただ気になったのは、小さな施設で昼時ということもあってか、森さんがいた3時間、利用者はずっとイスに座りっぱなしだった。
「食事前にちょっとした嚥下体操をして、あとは時々トイレに立つくらいです。ベッドで横になっている人もいましたが、食事をする以外はテレビを見るしかすることがないというのもつらいな、と思いました。座っているだけというのも、疲れることでしょう」
森さんの亡くなった母親は、デイサービスに行くのを嫌がっていた。帰宅すると「疲れた」と言って横になっていたのを思い出した。
「そりゃ疲れるよなと、ようやく母の気持ちがわかりました。私のために無理やりデイサービスに行かせたことを、今更ながら申し訳なく思いました」
それでも、有償ボランティアとしては特養よりもずっと楽だったことから、森さんは3回目もデイサービスを選んだ。食事の配膳や片付け、レクリエーションの手伝いをしてほしいという内容だった。
「ここは前回よりは大規模なデイサービスで、20人以上利用者さんがいました。大量の食器が下げられてくるので、洗って、拭いて、しまうのは、それなりに時間がかかりました。冬ではなかったので素手でも耐えられましたが、食洗機がないのは非効率だなと思いました。予算の関係なのかもしれませんが、人手不足ならなおさら少しでも機械化しないと対応できないのではないかと思います」
時給400円なのに、トイレ掃除?
予想外だったのは、この日急きょ健康診断が入ったため、レクリエーションがなくなったことだった。
管理者からは突然の予定変更を謝られたが、利用者はゲームをしたり、テレビを見たりしていて、森さんがお手伝いをする必要もなさそうだ。利用者と世間話をするだけで手持ち無沙汰そうにしている森さんを見とがめたのか、職員の中でもちょっと厳しそうな女性が「こっちに来てください」と言う。
「そろそろ帰る人もいるので、トイレ周りの掃除をしてほしいと言われました。え? トイレ掃除をさせるの? と戸惑いました。特養ではトイレといっても手すりや洗面所の消毒だったので、まさかトイレそのものの掃除をさせられるとは思いませんでした。そのあとは、ゴミをまとめる作業です。はじめからそう書いてあれば、そのつもりで来たんですが、なんだかなと……」
新しい施設だったので、トイレも汚くはないし臭いもなかった。ただ、「あくまでもボランティアなのに、便利に使われたな」という思いは消えなかったという。
「変なプライドかもしれません。お客さんとして扱ってほしいというわけではないですが、『時給400円なのに、トイレ掃除させるの?』という感じですね」
と、「時給400円でトイレ掃除」で、森さんは有償ボランティアのあり方に疑問を抱いた。――というより、「安い労働力扱い」が嫌になった。
そして、「経験も積んだし、こうなったら本格的にスキマバイトを探そう」と決意した。「本格的なスキマバイト」というのも矛盾しているのだが。
――続きは10月5日公開です。

