「女としてみてしまう」取引先からセクハラも、上司は守ってくれず…会社の責任は?

「女としてみてしまう」取引先からセクハラも、上司は守ってくれず…会社の責任は?

「取引先から身体を触られたり、『メスの匂いがする』などと言われたりして不愉快だ。これはセクハラにあたるのか?」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は職場で唯一の女性職員だそうです。取引先の業者から、「メスの匂いがする」「女としてみてしまう」「声かわいいね」と言われたり、肩・二の腕・髪の毛に触れられたりしているそうですが、上司も見て見ぬふりをしている状況です。

精神的に辛い状況でも、取引先との力関係から「笑うしかない」状況で、「私が許容していると思われてしまっているのでは」と悩んでいます。

「不愉快な発言や身体接触はセクハラにあたるのか」「取引先が加害者でも、会社側に責任はあるのか」「精神的に辛い状況から即時退職は可能なのか」といった点について、簡単に解説します。

●「セクハラ」にあたる場合とは?

今回の事例で問題となるのは、取引先の業者からの「メスの匂いがする」といった発言や、肩・二の腕・髪の毛に触れるといった行為です。これらは職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)にあたるのでしょうか。 セクハラにはいくつか類型がありますが、今回のケースは、就業環境が害される「環境型セクハラ」にあたるかが問題となると考えられます。

「就業環境が害された」かどうかは、被害者本人の主観だけでなく、「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断されます。具体的には、性的な言動の内容や程度、継続性・頻度などを考慮して、一般的な労働者にとっても就業環境が不快なものとなり、看過できない程度の支障が生じているかを判断します。

本事例では、取引先から「メスの匂いがする」「女としてみてしまう」といった性的な発言がおこなわれています。これらは明らかに相手を性的な対象としてみる内容であり、業務上必要のない性的な言動です。

また、肩や二の腕、髪の毛に触れるという身体接触もあります。これも業務遂行に必要のない、身体的な接触を伴う性的な言動といえます。

このような性的な発言や身体接触が繰り返される状況は、平均的な労働者の感じ方からみても、就業環境を不快にし、仕事をする上で看過できない程度の支障が生じるほどの苦痛を与えるものといえます。

したがって、本事例は環境型セクハラに該当すると判断できます。

なお、加害者が「取引先」であっても、この結論は変わりません。職場という働く場所で、性的な言動により就業環境が害されている以上、加害者が社内の人間か社外の人間かは関係なく、セクハラは成立します。

●笑顔で対応していても、セクハラは成立する

相談者は、取引先とのパワーバランスから笑顔で対応せざるを得ず、「許容していると思われてしまっているのでは」と心配されています。 しかし、その場を笑って取り繕ったとしても、セクハラの成立には影響しません。セクハラかどうかの判断は、「平均的な労働者の感じ方」という客観的な基準でおこなわれるため、被害者が明確に拒否の意思を示したかどうかは必須の要件ではないのです。

もちろん、はっきりと「やめてください」と意思表示できれば理想的ですが、取引先との力関係や職場の状況から、それが難しい場合も多くあります。本事例のように、相談者が精神的に辛い状況にありながら笑顔で対応せざるを得ないという状況そのものが、就業環境が害されていることを示しているともいえます。

したがって、笑顔で対応していたからといって、「許容していた」とはみなされず、セクハラの成立を妨げるものではありません。

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