「女としてみてしまう」取引先からセクハラも、上司は守ってくれず…会社の責任は?

「女としてみてしまう」取引先からセクハラも、上司は守ってくれず…会社の責任は?

●取引先が加害者でも、会社には対応義務がある

今回のケースで特に問題なのは、加害者が取引先の業者であるにもかかわらず、上司が「取引先とのパワーバランスがあるため」と何も対応していない点です。

「取引先だから会社は関係ない」と思われるかもしれませんが、そうではありません。

事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントへの対策を講じる義務があり、その義務の対象には、取引先の従業員など、他の事業主が雇用する労働者や、事業主が雇用する労働者以外の者からの行為も含まれます。(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」参照)

つまり、取引先からのセクハラであっても、会社には対応する法的義務があるのです。

また、労働契約法第5条では、使用者は労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする「安全配慮義務」を負うことが定められています。これには、セクハラにより就業環境が害されないように配慮する「職場環境配慮義務」も含まれます。

具体的には、会社は取引先に対してハラスメント行為の中止を求めたり、相談者が取引先と接触しなくて済むよう配置転換を検討したり、といった対応が求められます。それにもかかわらず、本事例では会社側がこうした対応を怠っているため、職場環境配慮義務に違反していると考えられます。

なお、取引先の従業員が加害者である場合、加害者自身は不法行為責任(民法709条)を負い、取引先の会社は使用者責任(民法第715条)を負う可能性があります。

●セクハラを理由に即時に退職できる?

セクハラによる精神的な苦痛から即時退職を検討する場合、法的には、雇用契約の期間の定めがある場合と、ない場合による違いがあります。

1)期間の定めのない雇用契約の場合

民法第627条第1項により、労働者はいつでも退職(解約の申し入れ)ができ、退職の申し入れから2週間が経過することで労働契約が終了します。

法的には即時の退職とはいえないように思えますが、セクハラによる精神的苦痛を受けている状況で会社側が労働者に就労を強制することはできないと考えられるため、申し入れ後に会社に働きに行く必要はないと考えられます。

また、会社側が即時退職に合意した場合には合意解約として即時に雇用関係が終了します。

2)期間の定めのある雇用契約の場合

契約期間の途中で退職するためには、原則として民法第628条の「やむを得ない事由」が必要とされています。

会社がセクハラ対策を怠り、労働者の心身の健康が害される状況は、この「やむを得ない事由」に該当すると考えられます。この「やむを得ない事由」が認められれば、労働者は契約期間の途中であっても、直ちに雇用契約を解除し、即時退職ができると考えられます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

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