●「いじめだと思うけど、法律的には違う」とされた現実
再調査を求めたのは、母親だった。
「最初の調査報告書では納得できませんでした。市教委主導の第三者委員会を立ち上げてもらい、息子は何度も聞き取りを受けました。でも、Bくん側は長く応じず、最終的に協力したのは2024年9月でした。調査の終盤でした」
結果、第三者委員会は「法律的にはいじめにあたらない」と判断した。
「第三者委員会の先生たちは『いじめだと思うけど、法律的にはいじめじゃない』と説明しました。本人たちしか真実はわからない、という曖昧な結論にされたんです」
母親は第三者委員会の対応にも不信感を抱いている。
「聞き取り中に居眠りする人もいました。交代を求め、実際、入れ替えもありました。息子の証言よりも、加害児童の一度の証言を重視する姿勢に納得できません。まるで加害者に寄り添っているように見えました」
●「川口市が傷つけたのに、なぜ私たちが逃げなければ」
報告書では、最初の「あだ名」についてはすでに学校調査でいじめと認定済みとして簡単に触れるにとどめ、「握手」の件のみ扱った。そして、「法律的にはいじめに該当しない」と判断した。母親は言う。
「息子は医師からうつ状態、パニック障害、解離性障害と診断されていました。この報告書が自殺未遂の引き金になったと思います。ようやく終わると思った調査の結末が、あまりにも冷たかった」
現在、ダイキくんは川口市から近隣自治体へ転居し、転校先で個別指導を受けている。
「川口市で起きたいじめなのに、転校したら対応が途絶えました。市教委からは『転校先の教育委員会に任せる』と言われ、心理的ケアも学習支援も打ち切られています。転校先の教委は『何も聞いていない』と言っています」
転校先では、補助教員がつき、タブレットを使って下級学年の学習をやり直している。友人関係は良好だが、心の傷は深いままだ。
「息子は『なんで俺が引っ越さなきゃいけない? 傷つけたのは川口市なのに』と何度も言います。転校で環境は変えられても、不安は消えません。昼間に衝動的に首を絞めたり、鉛筆で手を刺したりすることもあります」
ダイキくん自身も語る。
「僕は川口市に見捨てられたと思っています。転校先の学校は楽しいけれど、またいじめられるんじゃないかと思うと怖い。引っ越しても、まだ傷は治りません」
母親は最後にうったえる。「子どもの感じた苦しみを大人の"法律のものさし"で否定しないでほしい。被害者の声から学び、検証委員会を設置してほしいんです」

