認知症の祖母「どなたか存じませんが」孫を忘れてしまっても──娘の葬儀で見せた『深い愛情』に涙

認知症の祖母「どなたか存じませんが」孫を忘れてしまっても──娘の葬儀で見せた『深い愛情』に涙

帰り道には、もう忘れていた

けれど、その記憶は長くは続きませんでした。

葬儀を終え、車に乗り込むと、祖母はいつもの穏やかな顔に戻っていました。

「今日はどなたのお葬式でしたか?」

その一言に、私は言葉を失いました。ついさっきまで涙を流していたのに。

娘の名前を呼んでいたのに。

どう答えればいいのか分からず、ただ黙って祖母の手を握りました。

──祖母の中で、あの瞬間は消えてしまったんだろうか。

母が教えてくれたこと

そんな私に、母が静かに言いました。

「子どもに先立たれるのは、母親にとってあまりにつらいこと。だから、おばあちゃんは忘れることを選んだのかもしれないね」

その言葉に、ハッとしました。

もしかしたら、祖母の心を守るための優しい仕組みだったのか──。

そう思いながら施設に戻ると、祖母はいつもの穏やかな笑顔で私たちを迎えてくれました。

忘れることさえ、愛の形なのかもしれない。

そう感じた瞬間、他人として接する祖母の姿が、これまで以上に愛おしく思えたのです。

【体験者:20代女性・会社員、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。

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