●仕事とそれ以外をバーターにしない 「誰もが働き方を選べる」仕組みが必要
大嶋氏らのチームは、働き方に制約のある社員もない社員も、等しく意欲を持って働ける環境を整えた企業にヒアリングを実施した。すると、こうした企業は理由を問わずに柔軟な働き方を選べる仕組みを設けたり、DXを通じて職場全体の労働時間の削減を進めたりして、全ての社員に「仕事以外の役割も応援する」というメッセージを発信していた。
「日本の職場はこれまで、育児・介護も含めて『仕事以外のこと』を選べば安定雇用や収入、キャリアなどを諦めざるを得ず、仕事を取ればそれ以外のことを諦めざるを得なかった。しかしこれからは、両方を選べる仕組みが必要です」
明太子を製造・販売するふくや(福岡市)は「残業なし」「週3日勤務」「土日祝日に休みを固定」などから働き方を選べる仕組みを導入し、子育て中の女性らの離職を防ぐことに成功した。町内会活動などで地域に貢献する社員に「地域役員手当」も支給している。
また富山県の金属メーカー、CKサンエツは社員に「仕事最優先」「仕事優先」「私生活優先」「私生活最優先」の4つの選択肢から働き方を選んでもらい、賃金や育成投資の配分を調整することで「努力して働くほど報われる」組織をつくっていた。
働き方を選べるようにするのと同時に、人材育成と人事評価を通じて社員に力を発揮してもらう仕組みを作り、企業成長に結び付けようともしていた。例えば建設業のKMユナイテッドは徹底的な業務分析を通じて、職場に必要なスキルと社員の手持ちのスキルを明確化。その上で社員に「このスキルを身に着ければ評価が高まる」と伝え、スキルアップへの意欲を引き出していた。その結果職場全体のスキルが底上げされ、結果的に顧客満足度も高まったという。
「こうした企業は、社員への温情や理想論で制度を作ったわけではありません。優秀な人材を確保して企業成長を実現し、かつ従業員も辞めずにやりがいを持って働けるという、両方を叶えるための環境を整えようとしていました」
●会社の危機が働き方の改革につながった 「当たり前」をゼロベースで見直す
社員の社外活動を応援できるのは、その企業に余裕があるからだ、社員の誰もが柔軟な働き方をし始めたら、オペレーションが回らない--。企業からはそんな声も聞こえてきそうだ。 しかしふくやは採用難の中、やっとのことで集めた女性社員が出産を機に相次いで退職するという事態が起こり、KMユナイテッドも過去には、若い職人が「修行」の長さに耐えられず離職してしまう、という悩みを抱えていた。窮地に立たされて「週3日勤務でいいから働いてほしい」「短期間で一人前に育てるから、辞めないでほしい」と、必要に迫られる形で仕組みを整えた結果、職場全体の働き方が変わった。
また給排水の設備管理などを行う富士水質管理は、現場の徹底的な洗い出しによって、力仕事など男性としての力が求められる現場は、実は少ないことを突き止めた。男性しか務まらないという「当たり前」を見直した結果、女性や高齢者が活躍できるようになったのだ。 「『うちの会社の特性上、この部分は変えられない』と思考停止するのではなく『変えるとしたらどうするか』という視点で考えることが、職場改革の第一歩です」と、大嶋さんは指摘した。

