
横浜流星が主演を務める大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)。「裏切りの恋歌」とサブタイトルがつけられた11月9日放送の第43回は、一つの恋が終わりを迎えた。(以下、ネタバレを含みます)
■数々の浮世絵師らを世に送り出した“江戸のメディア王”の波乱の生涯を描く
森下佳子が脚本を務める本作は、18世紀半ば、町民文化が花開き大都市へと発展した江戸を舞台に、“江戸のメディア王”にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く痛快エンターテイメントドラマ。
蔦重はその人生の中で喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴を見い出し、また日本史上最大の謎の一つといわれる“東洲斎写楽”を世に送り出すことになる。
美人画が大評判となる喜多川歌麿役で染谷将太、蔦重の妻・てい役で橋本愛らが出演。語りを綾瀬はるかが務める。
■歌麿の蔦重への切ない恋心
丁寧に、丁寧に、つむがれてきた歌麿の恋が終わりを迎える。決して相手に思いが伝わることもなく…。
吉原への借金返済の代わりとして、歌麿に五十枚の女郎絵を描かせる準備を進める蔦重。歌麿の写生に付き添った蔦重は、歌麿が吉原や町で女性を見つめる様子から、亡き妻の代わりとなる「いい女いねぇか探してるんだよ」とていに言う。それは違った。歌麿が見ていたのは、恋という感情を抱く女性たちの「いい面(つら)」であって、前回、訪ねて来た地本問屋・西村屋を継ぐ万次郎(中村莟玉)に自分の顔を鏡で見ていたのを「ちょいと恋心をね」と答えたことと同じものであるのだ。
蔦重が気付くことのない歌麿の自分への思い。女郎絵の下絵を吉原の親父たちに見せに行ったとき、あらたな絵の案の話になる。まだ蔦重が本屋として駆け出しだったころ製作した、ふだんの女郎たちの絵を描く錦絵はどうかと。当時の吉原の親父たちは名がある絵師にしたほうがいいと、歌麿に描かせることはなかった。それを今の歌麿にというのだ。
「よく覚えてんな。そんなこと」と歌麿が言うと、「忘れるわけねぇだろ、あんな申し訳ねえこと」と蔦重。その当時の思い出話でも笑い声が出るものの、蔦重が「駿河屋兄弟が吉原をもっぺんあの頃に立て直しますんで」と歌麿の肩を組むと、歌麿はふっと座り位置を横にずらした。
ほんの小さな仕草が悲しみを増す。さらに続けて、蔦重の育ての母・ふじ(飯島直子)が蔦重のこれから生まれる子のために、おもちゃなどのお下がりを持ってきて話題がそちらに移ると、歌麿は「あのころとは、もう…」とつぶやいた。“あのころ”になかった妻と子という幸せを蔦重は手に入れている。歌麿の切なさがあふれ出た言葉だった。
■絵に歌麿が恋心を詰め込むも、蔦重は気付かない…
蔦重は、歌麿が万次郎と仕事をすると人から聞き、歌麿の家に駆け付ける。「んなわけねぇよな」と問いただす蔦重が見たのは、依頼したものではない女絵の下絵。「これは蔦重にだよ」と言われて、ほっとする蔦重。
その絵に描かれていたのは、蔦重が勘違いした吉原や町の女性たち。歌麿は「恋心」を描いたと告げる。「すげぇいい絵だけど、こりゃ売り方が難しいな」と、蔦重の目線はあくまで商売だ。描いたのは売ってほしいからではなく、「俺が恋をしていたからさ」と歌麿。すると、蔦重は歌麿が亡き妻のような人を見つけたのかと喜ぶ。そのときの歌麿の表情は、あまりにもやりきれなさが募っていた。
どこまでも平行線な2人の思い。歌麿は、その恋心に決着をつける。「俺、蔦重とは、もう組まない」。
蔦重が絵に自分の印よりも蔦屋の印を上に押すことへの不満。かつての蔦重のように「そうきたか!」と思える万次郎の案。それらが積み重なったうえで、一番の悲しみは「お前のため、お前のためって言いながら、俺の欲しいものなんて何一つくれねぇんだ」ということだ。
「おていさんと子、とびきり大事にしてやれよ」と言って、自宅を出た歌麿。戻って来た時には恋心を描いた絵とともに蔦重の姿はなかった。「二十年、俺についてきてくれてありがとな」という手紙を残した蔦重だが、そこでもやはり歌麿の気持ちに気付いている様子はなかったのが切ない。
いつもながら、秀逸なサブタイトルだ。“裏切り”というのは、サイドストーリーで進んだ松平定信(井上祐貴)の出来事もあるが、蔦重にとって歌麿が他の本屋と組むと知ったときは裏切りに近い感情を抱いたはずだ。そこに“恋”と歌麿の“歌”。視聴者からは「このタイトルにすべて詰まってる」「タイトルの回収すごすぎて」「今回も見終わってしみじみ考えさせられるタイトル」など反響が寄せられた。
歌麿の家から戻った蔦重は、さらにつらい出来事に遭う。ていがまだ産み月ではないのに、産婆いわく「産んじまうしかない」状況になったのだ。残り5話。物語の終焉まで、目が離せない。
◆文=ザテレビジョンドラマ部

