「腹パンかますぞ」「顔は覚えた」マスク着用求められ激高した男性が逮捕 「脅迫」とされたのはなぜ?

「腹パンかますぞ」「顔は覚えた」マスク着用求められ激高した男性が逮捕 「脅迫」とされたのはなぜ?

「腹パンかますぞ」などと言って医療施設の職員を脅したとして、広島県警が11月10日、会社員の男性を脅迫の疑いで逮捕したことが報じられました。

TSSテレビ新広島の報道などによると、男性は広島市の医療施設の女性職員に対して、「腹パンかますぞ」「殴ってやろうか」と言って脅したほか、別の女性職員にも「顔を覚えたけえのう、やられたら絶対やり返すけえのう」「一人でおったら用心せえよ」などと言って脅した疑いが持たれています。女性職員が男性にマスクの着用を求めたところ、激高したとされています。

男性は「これで脅迫と言われても納得できない」と供述しているそうです。本当に男性のいうように、この発言では脅迫罪は成立しないのでしょうか。また、脅迫だと思っていなかったことが犯罪の成否に影響するのでしょうか。

●脅迫罪が成立するには?

刑法222条(脅迫罪)は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」場合に成立します。

つまり、相手の命や体、自由、評判、財産に危害を加えると伝えることが必要です。また、その告知が一般の人にとって怖いと感じる程度の内容であることが必要です。

本件では、「殴ってやろうか」「腹パンかますぞ」と発言しているようです。「腹パン」は腹部にパンチを加えることを意味しており、これは身体に対する害悪の告知に当たります。

また、「顔を覚えたけえのう、やられたら絶対やり返すけえのう」「一人でおったら用心せえよ」といった発言も、同様に身体などへの害悪を示唆する告知と評価できます。

次に、本件の発言は、医療施設という公的な場で、職員という特定の相手に対して直接向けられており、具体的な暴行を示唆する内容が含まれているため、一般的に見て相手に恐怖を感じさせるに足るものと判断される可能性が高いです。

以上より、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」という要件を満たすと考えられます。

●「納得できない」といっても故意は否定されない

逮捕された男は、「これで脅迫と言われても納得できない」と供述しているようですが、これは法律上の脅迫罪の成立には影響を与えません。

犯罪の成立には、故意(犯罪事実を認識・認容していること)が必要です。

脅迫罪であれば、行為者が「相手方の生命、身体などに害を加える旨を告知する」という事実や、その上で告知行為を行っていることを認識・認容している必要があります。

本件でいえば、「腹パンかますぞ」とか「一人でおったら用心せいよ」という言葉が、相手の体などに危害を加える内容であることや、実際にそれを伝えたことがわかっていれば故意が認められます。

反面、自身の発言が「脅迫罪」という法的評価を受けることを理解している必要はありません。行為者が自身の行為に対する法的評価について勘違いしていても、故意は認められます。

つまり、「これが犯罪になるとは思わなかった」という言い訳は通りません。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

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