
四国編の第39回は、香川県丸亀市の「地域に出会う商店 ふじたしょうてん」。民家の裏庭のプレハブ小屋という、なんともユニークなロケーションで店を始めた店主の藤田さんは、コーヒーを介して地域や人のつながりを生み出す、自称“コーヒィネーター(R)”。学生時代からコーヒーを通して独自のコミュニティ作りを実践してきた。その経験を元に立ち上げた、地元の魅力と出会う場所へと、さまざまな人を誘うのも、やはりコーヒーだ。「基本は物販ですが、コーヒーがあるから話をするきっかけができます」という藤田さん。もちろん、自身もコーヒーラバーであり、その熱量も半端ない。むしろコミュニケーションのツールであること以上に、未知のコーヒーの楽しみを広げてくれる、知る人ぞ知る一軒だ。

Profile|藤田一輝(ふじた・いつき)
1991(平成3)年、香川県生まれ。高校時代にコーヒーとの縁を得て、東京の美術大学在学中にコーヒーをテーマにしたイベントを開催。卒業後は、デザインを活かしたプロジェクトを企画・運営する株式会社シュウヘンカに入社。シェアハウスの管理運営、展覧会など4年で約400の企画に携わり、個人でもコーヒーを使ったプロジェクト、コミュニティを立ち上げて活動。2020年に地元に戻り、香川・瀬戸内でつながった人々の商品を企画・販売するセレクトショップ、「地域と出会う商店 ふじたしょうてん」を開業。2023年にはシェア型書店「地域と繋がる本の街 城南書店街」もオープン。コーヒーを介して地域や人のつながりをコーディネートする活動の幅を広げている。
■自宅の裏庭でひっそり始まった小さな“商店”

丸亀市内のありふれた住宅街、目指す「ふじたしょうてん」の前まで来てみると、どう見ても普通の民家。門の前にちょこんと立つ矢印看板を頼りに家の裏手に回ると、今度は小さな物置に“COFFEE”の立て看板。一見、素っ気ない扉の向こうに、人知れず憩いの空間があろうとは、よもや思うまじ。「最初は表札の横に名刺サイズの看板しかなかったので、さらにわかりにくかったはず」と笑う店主の藤田さん。一度入れば、子どもの頃に憧れた秘密基地のような、居心地のよさを感じる。
それゆえ、当初は藤田さんの知人や、初めからここを知っている人だけが訪れる場所だった。「物販店として始めたんですが、実は僕と話をする場所という位置づけ。そのためのツールとして、ここでコーヒーを淹れ始めたんです」。実際に、訪れたお客の滞在時間は長く、1時間以上いることも珍しくない。会話の共として欠かせない、コーヒーと藤田さんの付き合いは、高校時代にまで遡る。始まりは、美大受験のために通ったアトリエの恩師が淹れてくれた一杯からだった。

「アトリエで作業がひと段落すると、コーヒーを淹れてくれました。それがきっかけで、家でも淹れるためにすぐにミルを買ったんです。大学でも文化祭で屋台を出店したり、他大学と交流したり、コーヒーをテーマにしたイベントもするようになって。この頃からどっぷりコーヒーに浸かっています」。長じて、大学卒業後は、東京でデザインを活かしたプロジェクトの企画会社・シュウヘンカの活動に参加。プランナー・萩原修さんの元でシェアハウスの運営などに携わり、関わったイベントは4年で400にも上る。この間に、自転車にリヤカーをつないで各地でコーヒーを振舞ったり、軽トラの荷台に小屋を建てたポイトラで全国に出向いたりと、独自のコミュニティ作りの試みを実践してきた。「その中で、いろんな人とつながりましたし、僕は“コーヒーの人”として認知されました」と藤田さん。学生時代から、地元の香川での地域起こしや町づくりを思い描いていたとあって、シュウヘンカでの濃密な4年間は、実践の場として得難い経験となった。

■地域で出会った人の縁から生まれたセレクトショップ

「東京にいる間にも香川にはたびたび戻っていて、以前は見えなかった、知る人ぞ知るプロダクトや職人さん、おもしろい活動をしている方にお会いして、帰るたびにご縁が広がっていきました」。あらためて地元で発見したユニークな人々の仕事を紹介したいとの思いが、地域で出会ったものを商品にするという発想につながり、開業のイメージが徐々に形を帯びていった。
地元にUターンし、「地域と出会う商店 ふじたしょうてん」がスタートしたのは2020年。折悪くコロナ禍の真っ只中にあったが、コーヒーをテーマに地域を越えて人が集まるオンラインサロン・Youtube チャンネル・くうちゅうコーヒー、香川で活動する多彩なゲストを招いて話を聞くポッドキャスト・うらにわラジオ[set]といった企画を展開。現在、店内で販売するアイテムは、こうした活動での縁から生まれたものだ。

地元の風景として親しまれる、おむすび形の山をモチーフにしたカスタネット、木工家の奥様が手掛ける“UDONスツール”など、ここにしかない香川オリジナルが詰まっている。「すべて自分が思い入れを持ってお話できるものを置いています」というアイテムと共に、さらに地域に関わる人との接点を生む、この場所を訪れる大きなきっかけを担っているのがコーヒーだ。
「地域をひらく店として、物販だけでは、たびたびここに来る理由が少なくなります。だから、当初は仕入れていたコーヒー豆を、自分で焼いたらいいのではと思って」と、開店からほどなく片手鍋での自家焙煎に着手。2021年に焙煎機を導入するまでに、のべ130キロを焙煎したという。「最後のほうは体調を崩さないように、サポーターとコルセット、マウスピースをしてました(笑)」と振り返る。また並行してコーヒー教室も開催し、やがてオリジナルアイテムのほとんどをコーヒー関連の器具が占めるように。「今はドリッパースタンドを開発中」と、まだラインナップは充実一途だ。

■膨大なドリッパーが物語る、日々の一杯にかける熱量

とはいえ、コーヒーがこの店の柱であるのは、コミュニケーションのツールとしてだけでなく、藤田さん自身が単純に淹れるのが好きだからという理由も大きい。それが証拠に、店内で提供するコーヒーにかける熱量は半端ではない。東京にいた学生時代から、方々のコーヒー店を巡り、なかでも、大坊珈琲店とも交流がある・ねじまき雲によく通い、深煎りに傾倒していたという。さらに浅煎りのムーブメント到来を機に、「深煎り党だったから浅煎りの味の物差しを知りたい」と、人気コーヒースタンド・BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSKに通い、さらにアルバイトスタッフとして実際に店頭で働きながら、嗜好の幅を広げた。
さらには、「珈琲倶楽部の大西さんの元にも話を聞きに行ったり、関西のロースターが主催するセミナーに参加したり、最先端から老舗の味まで追っています」というとおり、自店でも深煎りから浅煎りまで幅広い焙煎度でお客の好みに応える。「リクエストに対しては、常にフルスイングで、目の前の人が喜んでくれる一杯に注力します」と、豆によってレシピや器具も使い分けるというから恐れ入る。

藤田さんの細やかな提案の土台になっているのは、10年前に付け始めたドリップノート。東京でさまざまなコーヒー店を訪ねるなかでの気づきがきっかけだ。「ねじまき雲で抽出の所作を学んで、BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSKでは日常の居場所を大切にするスタンドの魅力に触れました。コーヒー店を巡り始めたばかりの頃、イノウエコーヒーエンジニアリングという店を初めて訪れた時に、おすすめの豆を聞いたらやんわりと怒られたんです。“うちはお客様の好みに合わせて豆を焼く店だから。豆の種類を変える前に、同じ豆でも挽き目、湯温などでも味は変わるよ”と優しく窘められて。その時はムッとして帰ったけど、実際に自分のレシピで条件を変えたら、おいしいやんと思って(笑)。以来、毎回、条件を記録しだしたんです」。
ノートを見ると、同じ豆を使って、焙煎日からの日数、豆の量、温度、抽出時間などの条件がこと細かに記されている。最初に選んだエチオピアの深煎りは、2012年から3年に渡って実験を重ね、それ以降もレシピを更新し続け、今では店の定番になっている。

今も勉強を続ける藤田さんが、今最も夢中になっているのが、壁にずらりと並ぶドリッパーだ。「初めから抽出にはこだわっていましたが、器具を変えたら味も違うということに気づいて、ドリッパーを集め始めたんです。子どもの頃に熱中したRPGの武器や魔法の一覧みたいに、どの器具がどんな特徴、効果を持つのかのチャートを当てはめていくのが楽しくて(笑)。カリタはシャープで、メリタはまろやかになるとか。1周回ると。逆にレシピに対してドリッパーを合わせたり、豆の種類に合わせたりしていきました。さらに古い型のドリッパーまで遡って集めると、当時のコーヒーの嗜好や事情が見えてきておもしろい。ここにあるのは現行のものだけで、ほんの一部。ストックも入れると衣装ケースに12箱くらいあって、数えきれないです(笑)」
ここまで、とことん突き詰める店も他にないだろう。ドリッパーへの興味も尽きないが、「最近はネルを見直していて、特に浅煎りのネルドリップにハマっています」と藤田さん。メニューに2種類あるエチオピアは、定番の深煎りはコーノ式のクラシックを使うが、浅煎りはネルで抽出する。器も甘さを取りやすい厚手のカップで、ネルドリップ独特のトロっとした質感と、ふっくらと厚みのある飲み心地を楽しめる。「淹れ方や焙煎度など、コーヒーにもいろいろなジャンルがありますが、どれにもいいところがあるし、全部がおもしろい。どんなきっかけでもいいんですが、こんなに違いがあるんだと感じてもらえれば」
■シェア型書店との連携で広がる新たなコミュニティ

藤田さんの活動は、この店だけに止まらない。2023年には、姉妹店となる書店「地域と繋がる本の街 城南書店街」を市内にオープン。大きな本棚の1枠ごとに異なる店主が選書・販売するシェア型のスタイルが大きな特徴だ。「ここでは本を購入すると、コーヒー1杯をサービスしています。小さな本屋の集まりを一つの商店街と考えて、香川に関わる人がここで書店主としてつながれます。例えば、県外にいてUターンを考えている人も、書店街に参加すれば、地元に戻る前にコミュニティができるから心強いはずです」

実は、「城南書店街」のアイデアは、丸亀に宿を作りたいという構想の途中で生まれたものだとか。「参考のために香川県から東京の間でいろんな宿に泊まっていると、近くにだいたいいい本屋さんがあるなと気づいて、先に城南書店街が形になりました。もちろん、先々は宿も形にできればと思っています」と藤田さん。すでに頭の中にイメージがあるそうだが、その発想は意想外のものだ。「ここを目当てに訪ねてくる方が泊まれるような場所、かつ、そこでコーヒーに触れられる宿。壁一面にドリッパーがあったり、淹れるのが楽しい部屋、飲むのが楽しい部屋があったり、あらゆる要素がコーヒーにつながっているような。香川は日本一小さな県ですが、さまざまなジャンルのコーヒーを楽しめる店があります。うどんと同じように、それらを案内して巡るのもよいのではと考えています」
まさに、コーヒーで地域をひらく存在として、藤田さんが自称する肩書が“コーヒィネーター(R)”とは言い得て妙。次はどんな形で地域の魅力を発信するのか、これからのコーヒィネートを楽しみにしたい。

■藤田さんレコメンドのコーヒーショップは「THOTH COFFEE」
次回、紹介するのは、香川県宇多津町の「THOTH COFFEE」。
「店主の玉地さんは、スペシャルティコーヒーのロースターとしては、香川の先駆け的存在。高校時代、カフェ巡りをしていた頃、当時、珍しかったラテアートが人気でした。豆のクオリティも高く、去年はイベントに一緒に出展したり、SCAJのセミナーにも誘ってもらったり、訪ねたらいろいろ教えてもらえる、よき兄貴的存在。香川中讃のコーヒーシーンでは要の一軒として、安心しておすすめできるお店です」(藤田さん)
【地域に出会う商店 ふじたしょうてん】
●焙煎機/アイリオ1キロ(電熱式)
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式、カリタ、メリタなど多数)、ネルドリップ
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/あり(300円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン約10種。100グラム950円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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