巨額の不正融資をおこなっていた「いわき信用組合」(本店・福島県いわき市)。その資金の一部が、反社会的勢力に流れていた。
金融庁が10月31日、同信組に対して行政処分を実施したと発表した。これにあわせて公表された特別調査委員会の報告書には、信組が「反社に助けられた結果、いかに絡め取られていったか」が赤裸々に記されて、注目を集めている。
そうした中、福岡の弁護士がXに投稿した「私だけに優しいヤクザなんていません」という言葉が共感を呼んでいる。
漫画や映画の世界では「私にだけ優しいヤクザ」が登場するが、現実は違う。いわき信用組合の事例は、その幻想がいかに危ういかを示している。弱みを握られ、脅迫され、カネをむしりとられていった──。その「手口」とは何だったのか。
●10億円もの使途不明金が反社へ
不正融資の実態が明らかになったのは2025年5月だ。第三者委員会の調査によって、実体のない会社を経由した迂回融資や、他人名義を使った無断借名融資などの手口で、多額の融資金が不正に提供されていたことがわかった。
第三者委報告書によると、不正融資の総額は約247億円とされた。大部分は「返済」という形で信組側に戻っていたというが、8億5000万〜10億円の使途不明金が残されていた。
今回の特別調査委報告書では、不正融資額は279億8400円となり、その資金の多く(約9億5000万円)が反社会的勢力への支払いだったと推計されている。
●きっかけは街宣活動の「解決料」
信組が反社と関係を持つようになったのは、1990年代にさかのぼる。
当時は「第一勧銀総会屋事件」が摘発されるなど、金融機関と反社の癒着が社会問題となっていた。
その流れの中で、いわき信用組合もターゲットとなり、1994年には本部や理事長宅周辺で街宣活動が繰り返されるようになった。
このとき、大口融資先の一人が「右翼団体との仲介役を務める」と申し出てきた。そして「解決料」として3億円以上を要求。信組は現金を支払ってしまった──。
これが、その後20年にわたる「カネの要求」の始まりだった。
特別調査委の報告書は、この人物(仮名「Σ(シグマ)」氏)を「『不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有』し、かつ、『法的な責任を超えた不当な要求行為』を繰り返す者」として「反社に該当する」と断定している。

