●「別件逮捕」では?
仮に今後、夫が不同意性交罪の間接正犯や教唆犯として逮捕されるのであれば、今回の名誉毀損罪による逮捕は、はじめから不同意性交罪での逮捕を目指した違法な「別件逮捕」ではないか?という疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
しかし、結論として、本件名誉毀損罪での逮捕は、違法な別件逮捕とは評価されないと思われます。
いわゆる(違法な)「別件逮捕」とは、本来逮捕の要件がそろっていない「本件」について取り調べをする目的で、証拠がそろっている軽微な「別件」で逮捕・勾留し、もっぱら本件の取り調べをするような捜査手法をいいます。
違法な別件逮捕にあたるかどうかは、本件と別件の罪質や態様の違い、法定刑の軽重、捜査の重点の置き方の違いの程度、本件についての客観的な証拠の程度、別件についての身柄拘束の必要性の程度、本件と別件の関連性の有無や程度、取調官の主観的な意図などの諸事情などに照らして判断されるといわれています(大阪高判昭和59年4月19日参照)。
本件の場合、たしかに名誉毀損罪(刑法230条1項、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)と不同意性交罪の教唆(刑法177条1項、61条1項、5年以上の有期拘禁刑)では法定刑に大きな差はあります。
しかし、妻の住所と、わいせつ行為ができるという内容を摘示する名誉毀損行為は、不同意性交罪の実行方法そのものであり、両罪には強い関連性があることや、本件における名誉毀損行為自体も犯情としてかなり悪質といえると考えられることなどから、違法な別件逮捕とまではいえないのではないかと考えます。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

