
「私の人生じゃない」と思いながら19年
一見するとひじょうに円満で幸福そうな小倉渉(北村有起哉)と妻・あん(仲間由紀恵)。男女ふたりの子供に恵まれ、瀟洒な小世帯のレトロマンション「たそがれステイツ」の3階に暮らしている。あるときふいにあんが、娘・ゆず(近藤華)が20歳になったら「離婚する」という約束はまだ生きていると言いだした。渉はてっきりその場限りのことだったと思いこんで忘れかけていたが、あんのほうはスマホでカウントダウンしていた。離婚期限まであと54日(第1話の時点で)。そもそもなぜそんな約束をしたのか。
第二子(娘)が生まれたとき、あんは育児ノイローゼに陥った。「ワタシはなんでここから動けないの」「私の人生じゃない」「なんでなんで私ばっかり」……。子供たちのことはかわいい。けれど、子育てが最優先され自分がどんどんすり減っていく。これではやがて子供を憎むようになるんじゃないかと不安が募った。子育てが終わったら自分の人生をもう1回送るために離婚するしかない。あれから19年……あんはその日を虎視眈々と待っていた。完璧に妻と母の役割をこなしながら。やり込められてばかりの夫、北村有起哉
カウントダウン宣言をして以降、あんは渉にこれまで抱えていた不満をことあるごとに吐き出すようになる。ただし、娘も暮らしているすてきな家のなかではネガティブな面はいっさい出さず、密室状態になる車のなかでのみ。買い物ついでに車のなかという閉鎖的な空間だからこそ、いっそう不満感が高まる。脚本は『最後から二番目の恋』シリーズの岡田惠和で、中井貴一と小泉今日子の丁々発止のやりとりが人気だったが、『小さい頃は、神様がいて』では渉があまり対抗しないで、あんにやりこめられてばかりいる。

