23歳受刑者が「精巣がん」で死亡、拘置所の初期対応は「不適切」 国に150万円賠償命令…東京地裁

23歳受刑者が「精巣がん」で死亡、拘置所の初期対応は「不適切」 国に150万円賠償命令…東京地裁

●「すみやかな治療でも死を回避できなかった可能性が高い」国が主張

男性の母親と婚約者は2023年3月、男性が適切な医療を受けられずに死亡したとして、国を提訴した。

主な争点は以下の点に整理された。

(1)初期対応の過失

2020年1月7日、9日の診察時に、医師が精巣腫瘍の発症を疑って、超音波検査などを実施すべき注意義務を怠ったかどうか。

(2)経過観察中の過失

男性が腰の痛みをうったえた2020年9月上旬〜10月5日、CT検査を実施すべき注意義務を刑務所側が怠ったかどうか。

(3)因果関係

(1)と(2)の過失が認められる場合、男性の死亡との間に因果関係があるかどうか。

原告側は「必要な検査を実施していれば、2020年1月末ごろには治療が開始でき、2021年7月の時点でも男性が生存していた高度の蓋然性が認められるなど」と主張した。

一方、国側は「2020年1月時点でがんの転移が進んでいた」などと反論し、「1月7日または9日の時点で精巣腫瘍が発見され、速やかに治療がおこなわれていたとしても、2021年7月24日に死亡する結果を回避できなかった可能性が高い」として、注意義務違反と死亡との因果関係を否定した。

●裁判所「不法行為の成立」は否定も「著しく不適切な医療」

東京地裁は、2020年3月にがんのリンパ節転移の可能性が指摘されていたことなどから、1月7日の時点ですでにがんがリンパ管などへ侵入していた可能性が十分にあると判断した。

そのうえで、当時、超音波検査や除去手術、化学療法が実施されていたとしても、実際の経過と同じようにがんの再発や転移した可能性は「否定し難い」として死亡との因果関係を否定した。

一方で、東京地裁は、刑事施設にも社会一般の水準に照らした適切な医療上の措置を講じるよう求める「刑事収容施設法」の規定に言及。

外科専門の医師が2020年1月9日に、超音波検査などを実施せずに陰嚢水の剥離細胞診のみで鑑別しようとした行為について、「臨床医学の実践における医療水準にかなったものではなく、これと乖離していた」「適切な医療行為を受ける利益を侵害する程度に著しく不適切なものであったというほかない」などと断じた。

不適切な医療行為を受けた男性が受けた精神的苦痛への慰謝料250万円を認定し、そのうち母親が相続した分(2分の1)と弁護士費用を含めて、150万円の支払いを命じた。

弁護士ドットコムニュースの取材に、弁護側は控訴する意向を示している。

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