甲状腺は人間の新陳代謝を調節するホルモンを分泌する臓器であり、このホルモン調節が乱れると適切な新陳代謝が行えなくなるでしょう。
新陳代謝は脈拍や体温などを調節する働きがあるため、甲状腺は人間が生きていくうえで重要な臓器といえます。
甲状腺関連の疾患では、新陳代謝に関わる甲状腺ホルモンの分泌異常をきたすものがあり、放置すると命の危機に晒されることもあるでしょう。
今回は、そのような甲状腺の病気や症状について、甲状腺がんの話題を交えながら解説していきます。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
甲状腺がんとは?
甲状腺がんとは甲状腺にできた悪性の腫瘍のことをいい、主に4種類に分類できます。
乳頭がん
濾胞がん
髄様がん
未分化がん
まず、乳頭がんは甲状腺がんの全体のうち約90%の割合で発生するとされ、甲状腺がんのなかでは発生率が高いです。乳頭がんは進行の遅いがんに分類されますが、悪性度の高い未分化がんに代わることもあるので油断は禁物です。
発症頻度として乳頭がんに次ぐのは濾胞がんで、肺や骨に転移しやすいといわれています。3番目の髄様がんは遺伝性で家族に髄用がんを患っている方がいる場合は、罹患しやすいとされているがんです。
また、髄様がんは褐色細胞腫という循環系統を調節するカテコールアミンを過剰に分泌させる副腎の病気を伴うことがあります。最後に未分化がんですが、このがんは甲状腺がんの約1%~2%程度と発生率は低いものの、発生してしまえば急速に腫瘍の増大や転移してしまう予後不良のがんとされています。
主な甲状腺の病気
甲状腺の病気は、甲状腺が産生する甲状腺ホルモン分泌に異常を与えるものがあります。
甲状腺ホルモンは胎児の発育にも影響するといわれており、特に妊娠前・妊娠中・授乳期では甲状腺のコントロールを良好な状態で維持する必要があるでしょう。ここからは、そのような甲状腺の病気について解説していきます。
バセドウ病
バセドウ病は甲状腺ホルモンの分泌過剰を引き起こしてしまう病気です。バセドウ病では以下のような症状があります。
動悸
手の震え
汗かき
甲状腺の腫大
眼球突出
これらの症状は、甲状腺ホルモンにより新陳代謝が亢進しているが故に出現する症状です。この状態は安静にしているのに、体のなかでは常に走り続けているというイメージに近いでしょう。
この状態が継続すると、不整脈の発生や栄養不足に陥る可能性もあり、健康上あまりよくない状態といえるでしょう。バセドウ病の検査には血液検査や超音波検査などを行うことで診断できます。
治療では薬を使用して甲状腺ホルモンの産生量を低下させ、甲状腺機能を調節していき血液検査で評価します。薬を開始してから2週間後くらいには少しずつ改善が期待でき、1~2ヵ月程でかなりの改善が期待できるでしょう。
コントロールがつけば健康な人と同じように生活を送ることも可能です。バセドウ病を疑うような症状がある場合は、早めに受診しましょう。
橋本病
橋本病はバセドウ病とは逆に、甲状腺ホルモンの分泌量が減少してしまう疾患です。症状は以下のようなものがあります。
むくみ
寒がり
便秘
物忘れ
これらの症状は、新陳代謝が落ちるが故に起こるとされており、自身の免疫異常によって甲状腺に慢性炎症が発生していると考えられています。
症状が軽度であれば治療の必要はありませんが、治療が必要な場合は甲状腺ホルモン剤を内服することになるでしょう。甲状腺機能低下が改善されれば、内服も終了となることもあります。
しかし、治ったと思って安心してはいけません。喫煙は橋本病のリスク因子とされており、喫煙を継続していると橋本病を再発する恐れがあります。そのため、橋本病と診断されたら禁煙するようにしましょう。
無痛性甲状腺炎
痛みのない炎症が甲状腺に起こり、甲状腺の細胞が徐々に破壊されていきます。甲状腺細胞が破壊されることで血液中に甲状腺ホルモンが流れ出し、甲状腺ホルモンが過剰になりバセドウ病と似た症状を呈するでしょう。
しかし、この症状は一時的なもので1ヵ月程度で治まるといわれています。その後、今度は甲状腺ホルモンが欠乏状態になりますが、この症状も一時的なもので半年以内にもとの状態に回復するでしょう。
亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎はウイルス感染が原因と考えられています。ウイルス感染により、甲状腺ホルモンが過剰となり、バセドウ病と似た症状を呈するでしょう。また、亜急性甲状腺炎に特徴的な症状として発熱や前頸部の痛みも加わってきます。
甲状腺の腫瘍(良性)
甲状腺の腫瘍が良性の場合、甲状腺ホルモンが過剰に産生されることがあるので、バセドウ病と似た症状を呈することもあります。
ほかにも甲状腺のしこりや甲状腺全体の腫れなどがあり、女性では美容の関係上気にする方もいるでしょう。そのような場合は、手術などを行いますが原則的には経過観察になります。
甲状腺がん
甲状腺がんは甲状腺腫瘍が悪性であった場合に診断されます。前頸部の腫れやしこりが主な症状で、進行し腫れが大きくなってくると嗄声や嚥下障害をきたすこともあるでしょう。
治療としては手術が第一選択になり、腫瘍の大きさや周囲への浸潤具合などを調べたうえで、甲状腺をどこまで摘出するかを検討します。

