眼精疲労とは、簡単にいえば目の疲れが慢性化した状態です。長時間のパソコン作業などで目を酷使すると、目が痛む、かすむ、まぶしく感じるといった症状が現れます。それだけでなく、頭痛や肩こり、吐き気など身体全体の不調まで起こり、少し休んだだけでは回復しないことも少なくありません。近年はデジタル機器の普及により誰でも起こりうる身近なトラブルであり、放置すると日常生活の質が下がってしまいます。本記事では眼精疲労の症状や原因、改善方法や治療を解説します。

監修医師:
栗原 大智(医師)
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
眼精疲労の症状

眼精疲労は病気ですか?
眼精疲労自体はウイルスや細菌による病気ではなく、目の使いすぎによる不調の総称です。ただし、単なる疲れ目とは異なり、目や身体にさまざまな症状が現れ、休息しても十分に回復しない明確な体調不良の状態です。きちんと対処しないと、症状は改善することなく、むしろ悪化していくことが少なくありません。見えにくさはもちろん、頭痛や肩こりなどの原因となり、日常生活に影響を及ぼすこともあります。
眼精疲労の症状を教えてください
眼精疲労では、目に関する症状と全身の症状の両方が現れます。代表的な目の症状には、目の痛みや重だるさ、ピントが合わず物がかすんで見える、まぶしく感じる、目の充血、乾燥感(ドライアイ)などがあります。また、まぶたがピクピクけいれんしたり、瞬きが増えたりすることもあります。加えて全身の症状として、頭痛や、首や肩のこり、吐き気、ひどい場合はめまいや強い疲労感などを訴えることもあります。こうした症状が長引いている、あるいは目を休めてもよくならない場合は、眼精疲労の状態に陥っている可能性があります。
眼精疲労と似た症状の病気はありますか?
はい、いくつかあります。例えば、白内障では「なんとなく見えにくい」、目が疲れやすいといった症状が現れますし、ドライアイでも目の乾きや不快感から目の疲労感が強まります。
そのほかにも、斜位や斜視、上まぶたのたるみ(眼瞼下垂)など、多くの目の病気が眼精疲労に似た症状を引き起こします。「眼精疲労かな?」と思って放置するのは危険で、実は別の病気が隠れている可能性もあるのです。特に、視力低下などの異常、普段と違う症状を伴う場合は、早めに眼科で検査を受けるようにしましょう。
眼精疲労と疲れ目の違いを教えてください
疲れ目は、読書やパソコン作業などで一時的に目が疲れた状態を指し、休息や一晩の睡眠で回復する軽い症状です。一方、眼精疲労は休んでも回復しないほど深刻な状態で、目の痛みやかすみ、充血といった目の症状に加えて頭痛や肩こりなど全身の不調も伴う点が大きな違いです。言い換えると、疲れ目が慢性化あるいは悪化したものが眼精疲労ともいえます。ただ目が疲れているだけと思っていても、症状が翌日まで持ち越したり、身体にも不調が出たりしている場合は、眼精疲労になっている可能性があります。その際は早めに対策をとりましょう。
眼精疲労の原因

なぜ眼精疲労になるのですか?
長時間、細かい作業やパソコンやスマートフォンの画面を見ることで、目のピント調節機能やまばたきの働きに負担がかかり続けます。その結果、目の筋肉が疲れ切ってしまい、正常な休息では追いつかなくなるのです。また、度の合わないメガネ・コンタクトの使用や、老眼の始まりに気付かず無理に近くを見続けることも原因となります。さらに、空調による乾燥した環境や強い光、ストレスや睡眠不足など生活環境や習慣の乱れも目の負担を増やしてしまい、眼精疲労を引き起こしやすくなります。
眼精疲労になるメカニズムを教えてください
近くのものを見るとき、私たちの目の中では毛様体筋という筋肉が収縮し、水晶体を厚くしてピントを合わせています。パソコンや書類を長時間近距離で見続けると、この毛様体筋が緊張しっぱなしになり、筋肉が疲労してピント調節がうまくできなくなってしまうのです。また、凝視している間は瞬きの回数が減ります。涙の分泌も減って目が乾燥しやすくなるため、角膜表面が荒れてさらに視界のかすみや痛みを招きます。こうした目そのものの疲労に加え、長時間同じ姿勢で画面に向かっていると首や肩の筋肉もこわばり血行が悪くなります。その結果、首や肩こりや頭痛といった全身症状まで現れると考えられています。
眼精疲労になりやすい人の特徴を教えてください
現代では誰でも眼精疲労になる可能性がありますが、特に以下のような傾向のある方は注意が必要です。
長時間の近距離作業をする方
眼鏡やコンタクトレンズの度数が合っていない方
目の病気やドライアイがある方
ストレスや体調不良がある方
以上のような要因に心当たりがある方は、普段から意識的に目を休める習慣を持つことが大切です。

