
横浜流星が主演を務める大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)の第43回「裏切りの恋歌」が11月9日に放送。歌麿(染谷将太)の蔦重(横浜)への恋心の行方が描かれた中、幕府で改革を推し進めてきた松平定信(井上祐貴)にも大きな展開があった。(以下、ネタバレを含みます)
■数々の浮世絵師らを世に送り出した“江戸のメディア王”の波乱の生涯を描く
森下佳子氏が脚本を務める本作は、18世紀半ば、町民文化が花開き大都市へと発展した江戸を舞台に、“江戸のメディア王”にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く痛快エンターテイメントドラマ。
蔦重はその人生の中で喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴を見い出し、また日本史上最大の謎の一つといわれる“東洲斎写楽”を世に送り出すことになる。
美人画が大評判となる喜多川歌麿役で染谷将太、蔦重の妻・てい役で橋本愛らが出演。語りを綾瀬はるかが務める。
■“大老”の職を目指す定信
「蔦重とは、もう組まない」と歌麿が宣言した第43回。蔦重にとって青天の霹靂ともいえる出来事だったが、もう一人、同じような思いをした人物がいた。松平定信だ。
老中首座にまでのぼりつめ、幼くして第11代将軍になった家斉(城桧吏)の後見役ともなって、幕政をけん引する定信。このころは、日本に船で接近してきたオロシャ(※ロシアのこと)の対策に奔走していた。
そんな定信に家斉は、実父の一橋治済(生田斗真)から「そろそろそなた(※定信のこと)に頼るのはやめ、己で政を指図するべき」と言われたと切り出した。だが「余は難しきことは分からぬし、正直なところ、政に興も湧かぬ。そなたが将軍補佐を外れても、ずーっと将軍補佐のごとく指図を出す仕組みはないものかの」と語った。
その言葉をきっかけに、定信は大老の役職に就けないかと徳川宗睦(榎木孝明)に相談する。大老とは、老中よりも上となる最高位の職。だが、井伊、酒井、土井、堀田の四家からしか出さないというしきたりがある。定信は、過去に第5代将軍のときに柳沢吉保が大老“格”に任じられた例があるとし、将軍家に次ぐ家格の徳川御三家である宗睦の後押しを願ったのだ。
宗睦は、家斉が定信のことを煙たがっていたはずなのになぜかと怪しむが、定信はオロシャの脅威を前にして自分のことが「入り用」だと考えたのだろうと話す。
定信は、江戸幕府の初代将軍・家康が祀られた日光東照宮の方角に手を合わせ、「日本を私に守らせてくださいませ。かなえていただけぬのならば、代わりに、死を賜りたく」と祈るほどに、その思いは強かった。
■怒り心頭の定信を熱演した井上祐貴に称賛
しかし、宗睦の懸念が当たってしまう。
定信の生家、田安家では将軍を出すことが念願だった。しかし、それはかなわなかったものの、大老となれる。定信は「いささか不敬ではあるが、ここはひとつ、将軍になったつもりでことにあたろうと思う」と家臣に言った。
その喜びを胸に、家斉の元へ出向いた。それに先んじて、オロシャ対策を無事に終えたことを家斉に報告した際、定信は「早い時間に下城したい」と願い出ていた。それは、将軍補佐と老中の兼任が負担だという建て前で、二つの職を解いて、大老に就任するという狙いだった。
ところが家斉は将軍補佐と老中の職を解いただけに終わり、「これよりは政には関わらず、ゆるりと休むがよい」と言ったのだ。家斉、かつて定信の側にいた本多忠一ほかの老中、そして治済の結託の前には、宗睦の言葉もかき消されてしまった。
結託した側には、かつて定信の改革を一緒に推進した本多忠籌(矢島健一)の姿もあった。定信が退室すると、家斉たちは笑い声を上げた。
その後、一人、布団に突っ伏して「私ではないか!嫌がられようとも、煙たがられようとも、やるべきことをやりとおしたのは私ではないか」と嘆いた定信。「クズどもが…地獄へ…地獄へ落ちるがよい」と言い捨てたときの血走った眼には、裏切られた悔しさや怒りが見て取れ、視聴者から「すごっ」「すさまじい」と投稿があり、演じた井上への称賛も寄せられた。
なお、定信が布団に突っ伏したのは、第36回でもあった。自分の政策により、ひいきにしていた戯作者・恋川春町(岡山天音)が自害したと知ったときだった。おそらく今回も同じ部屋だと思われるが、また忘れられない名シーンが誕生した。
■治済の能面コレクションにも注目
定信の失脚が市中で伝えられ、喜びに沸く民の様子を治済が確認し、読売まで購入する様子が映し出された。そのことからも定信を追い込んだのは、治済の存在があると考えられる。
物語の中盤、自邸で自慢の22もの能面をずらりと並べていた治済。最初に顔に当てた能面はなにかしっくりこないというような表情だったが、別の一つに視線をやると、口元にかすかな笑みがこぼれた。その能面を顔に当てたとき、これはしっくりきたとでもいうようにうなずいていた。
放送後、その能面を用意したという能楽師・辰巳大二郎氏が自身のSNSで、治済が最初に手に取ったものは「泥真蛇」という男蛇や悪龍の役に使用されるもの、次に手にしたのは「俊寛」だと明かした。
能の「俊寛」は、平安末期に島流しにされた僧侶・俊寛の悲劇を描いた演目。俊寛の島流しは“鹿ヶ谷の陰謀”がきっかけとされるが、治済の“陰謀”、また定信が幕政の中心から島流しのようにいなくなることを暗示したものなのだろうか。
ただ、定信はこれで終わりとはならなそうだ。失脚した定信に、元大奥取締の高岳(冨永愛)が接触。10代将軍・家治の嫡男の暗殺に使われたとされる手袋を持参していた。まだまだ幕府の動きも波乱があるようだ。
◆文=ザテレビジョンドラマ部

