
フリーアナウンサーの中井美穂と宝塚歌劇団OGのゲストが作品の魅力を語り、深掘りトークを展開する時代劇専門チャンネルの人気企画【華麗なる宝塚歌劇の世界】。Season7となる今回の特集では、11月の番組ゲストとして、『蘭陵王-美しすぎる武将-』('18年花組 KAAT神奈川芸術劇場・千秋楽)で主演を務め、2025年1月に宝塚歌劇団を退団した凪七瑠海が登場。番組収録を終えたばかりの凪七に、作品への思い、収録の感想、そして退団後の心境を語ってもらった。
■中井美穂さんとのおしゃべりで蘇った、『蘭陵王』への想い
――『蘭陵王-美しすぎる武将-』('18年花組 KAAT神奈川芸術劇場・千秋楽)が11月17日に放送されます。番組での中井美穂さんとの宝塚歌劇トーク、とても盛り上がっていましたね。
(中井)美穂さんはひとつの作品を本当に丁寧にご覧になる方で、細部まで深く掘り下げてくださるんです。だから話題が尽きることがなくて、いつも楽しくおしゃべりさせていただいています。今回は『蘭陵王-美しすぎる武将-』のテーマ性、当時の自分の気持ち、仲間と過ごした時間のことなども自然と振り返ることができて、心温まるひと時を過ごせました。
――特に印象に残った話題は?
いろいろあるのですが…自分でも驚いたのが、涙ぐんでしまったことです。『蘭陵王』の出演者は本当に仲が良くて、「公演後も定期的に集まって、“蘭陵王会”(食事会)をしようね」って約束をしていたんです。2023年に花組全国ツアー『激情』-ホセとカルメン-/『GRAND MIRAGE!』に出演した際、偶然にも『蘭陵王』のメンバーが何人も出演していて、その中の下級生が“蘭陵王会”を企画してくれて、皆で食事をしました。その場で私が「また皆で集まりたいから、みんな長く宝塚にいてね」と言ったら、その会を企画してくれた下級生が「私まだまだ続けます!」と言ってくれて。その言葉に、もっと宝塚で頑張ろうとしている覚悟が感じられて、うれしくて涙がこぼれました。
今回、美穂さんと話していたら、その時の気持ちが蘇ってきて、思わず涙が…。『蘭陵王』は、作品への思い入れはもちろんですが、仲間との深いつながりをつくることができた特別な作品でもあるのです。
■「美しかったが、悪いか」――役に込めた覚悟と“緊張”の大切さ
――『蘭陵王-美しすぎる武将-』の作品としての魅力を教えてください。
蘭陵王は、6世紀の中国に実在した武将です。あまりにも美しい容貌だったため、兵士たちの士気が下がることを恐れて、戦場では仮面をつけて戦ったという伝説も残されています。その波乱に満ちた生涯を描いた本作には、巧みに張り巡らされた伏線がいくつもあり、とてもドラマティック。登場人物たちが語る、真っすぐに思いを伝える言葉も胸に響きます。特に、語り部の京三紗さんが最後に伝えるメッセージは、多くの人の心に深く届くのではないでしょうか。
――“類い稀なる美しさで名を残す武将”を演じるうえで、どんなことを意識されましたか?
意識していたのは、皇族としての高貴さや上品さです。ただ、それを表に出すというよりも、自分の内側――腹の底に静かに沈めておくような感覚です。表に出さずとも、佇まいや所作の端々からにじみ出るような、そんな気品を表現できればと思っていました。
――ポスターにも書かれていた「美しかったが、悪いか」という台詞を言うシーンは、とても印象的でした。
最初にポスターを見た時は、本当にビックリしました。しかも、それを台詞として自分が言うと知り、「これ本当に私が言うの!?」って(笑)。でも、蘭陵王にとっては、幼い頃からずっと言われ続けた言葉で、その外見故に壮絶な人生を歩まざるを得なかった。だからこそあの台詞には、蘭陵王がそれまでの人生で経験してきたすべての出来事を受け入れる覚悟のような、そんな強さと激しい思いを込めました。
――自分の美しさが人生を狂わせるという難しい役どころで、芝居や歌、殺陣などチャレンジも多かったと思います。演じるにあたり緊張しませんでしたか?
よく「緊張しないタイプでしょ」と言われるのですが、そんなことはなくて、当時もしっかり緊張していました(笑)。今も舞台に立つ時は、やっぱり緊張します。緊張するのは、本当は嫌です。でも、だからといってなくしたいとは思っていません。舞台に慣れすぎたくないというか…、毎回新鮮な気持ちで立ちたいという思いのほうが強いです。
――下級生の頃はどうでしたか?
むしろ下級生の時のほうが緊張しませんでした。男役に憧れて宝塚歌劇団に入ったので、憧れのスターさんたちと一緒に芝居ができていること、男役の芝居ができていることがうれしすぎて、ただただ楽しかった。でも学年が上がるにつれて、それだけではいられなくなり、徐々に緊張するようになりました。
――凪七さんは専科として宝塚歌劇の5組すべてに出演をされましたが、他の組に出演される際は緊張しましたか?
専科に異動になって他の組に特別出演するたびに、毎回とても緊張していました。私は最後まで自分のことを「専科」とは言えず、「専科ちゃん」と呼んでいたのですが、それは私の中で“専科”という存在があまりにも大きくて、自分はまだその域に達していないという気持ちがあったからです。でもその立場になった以上、「ちゃんとしたパフォーマンスをお見せしなくては」という責任感とプレッシャーは常にありました。
退団公演の最後のご挨拶でもお話ししましたが、宝塚での私の一番の宝物は“人との出会い”です。特に専科時代にさまざまな組の方々と関われたことは、とても大きな経験でした。また、組によってカラーは違っても、「宝塚歌劇を愛する心は一緒なんだ」と感じられたのもうれしかった。専科生として舞台に立てたことで、特別でかけがえのない時間を過ごさせてもらえたと思っています。
■ニュートラルな自分になれる時間を大事にしながら、芝居を続けていきたい
――2025年1月の退団後すぐ、4月には舞台活動を再開されました。その時のお気持ちをお聞かせください。
私は本当に宝塚歌劇が大好きで、「もう自分が宝塚歌劇でしたいことはやりきった」と心から思えたので退団を決めました。その時は、退団後に舞台を続けるか別の仕事をするかは、ゆっくり考えようと思っていたんです。
でも、退団公演中に『1789 -バスティーユの恋人たち-』への出演のお話をいただいて…すごく迷いました。お役も大きくて、声のトレーニングなどの準備をする時間もほとんどなかったので、「こんな状態で舞台に立って失礼じゃないか」と。でも、このタイミングでお話をいただいたということは、神様が「もっと舞台で挑戦しなさい」と背中を押してくれているのかもしれないと感じて、覚悟を決めました。
――その後も舞台への出演が続いていますが、もし長期のお休みが取れたら何をしたいですか?
旅行にも行きたいし、勉強もしたい。体も鍛えたいし、歌ももっと学びたい。やりたいことだらけですね(笑)。でも、お芝居のお話があったら…きっとお受けしちゃうと思います。とはいえ、自分を“ニュートラル”な状態に戻す時間もすごく大切なので、そのオンとオフのバランスをうまく取っていきたいです。
――ニュートラルな状態の時は、どんなことをして過ごしていますか?
その時に「好き!」と思えることをするのが一番ですね。温泉に行ったり、自然に触れたり、会いたい人に会ったり。自分の心と体の声を聞きながら、好きなことを楽しむようにしています。
■“テレビ観劇”の魅力は、オペラグラスなしで細やかな芝居を間近に感じられること
――最後に、テレビで宝塚歌劇を視聴する魅力は、どんなところにあると思いますか?
オペラグラスを使わなくても、出演者の細やかな芝居がアップで見られるのは大きな魅力だと思います。それに衣裳のあしらい、娘役の髪飾りや髪形、アクセサリーなど、劇場では見落としがちな部分までしっかり映る。劇場で観劇するのとは違った発見があると思います。
――番組をご覧になる視聴者の皆様へメッセージをお願いします。
『蘭陵王』は、冒頭の思いがけない展開に驚かれるかもしれませんが、とても力強いメッセージが込められた作品です。下級生に至るまで、一人ひとりの活躍を楽しんでいただけると思います。そして、音楽が本当に素晴らしい!壮大で緩急があり、心に触れるようなメロディがフィナーレまで散りばめられていて、『蘭陵王』の世界観を華やかに、ドラマティックに彩ってくれています。中井美穂さんとのトークでは、作品のさまざまな見どころポイントについてもお話ししていますので、ぜひその視点も交えながらご覧いただけたらうれしいです。
構成・文=神山典子

