脱臼の治療
脱臼の治療は、迅速な整復と適切な療法が基本です。
急性期の治療目標は、関節を正常な位置に戻し、周囲組織の二次的損傷を最小限に抑えることになります。整復は、局所麻酔や全身麻酔下で行われ、徒手整復法(脱臼した部位に対して手で元の位置に戻す手法)を実施するのが一般的です。関節の種類や脱臼の状態によって適切な整復方法を選択します。
整復後は損傷部位を動かさないように、ギプスやつり包帯を用いて固定します。固定方法は、脱臼の種類や部位によりさまざまです。また、X線撮影で関節の位置を確認し、神経血管系の再評価を行います。
安定した整復が得られない場合や、整復後も不安定性が持続する場合は、手術療法が検討されます。
手術後は、関節の安定性を獲得するために一定期間の固定が必要です。固定期間は関節の種類や損傷の程度によって異なりますが、一般的に2〜3週間程度です。
固定後は、関節の拘縮を防ぐために、段階的なリハビリテーションプログラムを実施します。初期には関節可動域訓練と等尺性筋力トレーニングが行われ、徐々に筋力強化や協調性訓練を実施します。
反復性脱臼や慢性的な不安定性を呈する症例では、関節鏡視下手術や観血的手術による靭帯修復や関節包修復術が選択されることがあります。術後のリハビリテーションは特に重要で、適切な運動療法と患者教育により、関節機能の回復と再脱臼の予防を図ります。
脱臼になりやすい人・予防の方法
脱臼のリスクが高い人には、いくつかの特徴や要因があります。
例えば、疾患が原因で関節の緩みが起きやすい人は脱臼を発症しやすいです。これには、組織の脆弱性が特徴の遺伝性疾患であるエーラス・ダンロス症候群やマルファン症候群などの疾患が含まれます。
また、特定のスポーツ選手、特にコンタクトスポーツや投球動作を多用する競技の選手も脱臼のリスクが高いです。さらに、過去に脱臼の既往がある人は、関節の不安定性が残っている可能性があり、再脱臼のリスクが高まります。
再脱臼率は若い人ほど高いですが、高齢者も筋力低下や骨粗鬆症による関節の安定性低下により、転倒時に脱臼を起こしやすいため注意が必要です。
予防方法としては、適切な筋力トレーニングとストレッチが重要になります。脱臼と同時に関節唇損傷も発生しやすいため、関節を安定させる筋肉群の強化が効果的です。
スポーツ活動時は、適切な装具の使用や、テーピングによる関節のサポートも考慮します。正しいフォームやテクニックの習得、過度な負荷を避けることも重要な予防方法です。
日常生活においては、転倒予防が重要であり、特に高齢者では手すりの設置、段差の解消などの環境整備やバランス能力の向上を目的とした運動療法が推奨されます。
さらに、定期的に診察を受け、関節の状態を把握することで、早期に不安定性を発見し、適切な介入を行うことが可能です。
これらの予防策を総合的に実施することで、脱臼のリスクを軽減し、関節の健康を維持することができます。
関連する病気
発育性股関節形成不全
脳梗塞エーラス・ダンロス症候群マルファン症候群関節唇損傷
変形性関節症
参考文献
肩関節脱臼の治療戦略とリハビリテーションの役割
腱板断裂に起因する肩関節不安定症の検討
一般社団法人日本臨床整形学会
上腕近位部を外側に水平移動させて整復した肩関節前方脱臼の3例
一般社団法人日本スポーツ整形外科学会
先天性股関節脱臼に対する超音波検査の利用
難病情報センターエーラス・ダンロス症候群(指定難病168)
肩関節疾患のリハビリテーション
難病情報センターマルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群(指定難病167)

