先天性股関節脱臼の治療
CDHの治療では、早期発見と早期治療が重要です。発見された時期や症状の重さによって治療方法が異なります。
1. リーメンビューゲル(RB)装具療法
この治療法は、生後3~7ヶ月頃に診断された場合によく使われます。
治療方法
この装具は股関節を開いた状態に保ち、股関節が正しく発達するようにサポートします。外来通院で行えるため、入院が必要ない点が大きなメリットです。
効果と注意点
約80%の症例で良好な結果が期待できますが、まれに大腿骨頭壊死などの合併症が起こるリスクがあります。また、かつては臼蓋形成不全の治療にも使われていましたが、現在は使われていません。
2. 牽引療法
RB装具療法で効果が見られない場合や、重症例、診断が遅れた場合に使われる方法です。
治療方法
入院して、大腿骨を徐々に引っ張ることで股関節を正常な位置に戻します。治療には数週間かかります。
3. 手術療法
保存療法(RB装具や牽引療法)で改善が見られない場合や、3歳以上で診断された場合に行われることがあります。
注意点
治療が遅れると、臼蓋形成不全や脚の長さの違いなどの後遺症が残る可能性が高まります。そのため、早期治療が特に重要です。治療後も長期にわたる経過観察が必要で、成人後に変形性股関節症が発症するリスクもあるため、注意深いフォローアップが行われます。
その他の治療法
育児指導
新生児期に軽度のCDHと診断された場合、股関節を開いた状態を保つように抱っこしたり、おむつを工夫することで、自然に治癒することがあります。
日常生活の注意
股関節に負担をかけないようにするため、次のような点に気をつけることが大切です。
M字開脚
両膝を曲げて開いた状態にすることで、股関節の負担を軽減します。
コアラ抱っこ
赤ちゃんを向かい合わせに抱っこし、股関節を開いた状態を保ちます。
低出力レーザー療法
一部の研究では、低出力レーザーを使って股関節の開排制限を改善し、治療効果を高める可能性があると示されています。これにより、股関節の動きを改善し、合併症のリスクを減らせる可能性があるとされています。
先天性股関節脱臼になりやすい人・予防の方法
CDHになりやすい人
女の子
股関節脱臼(CDH)は、男の子よりも女の子に多く発症します。男女比は1:5~9とされており、女の子は男の子に比べて6~8倍ほど発症しやすいと報告されています。
家族に股関節疾患のある人
CDHは家族内で発症することが多く、遺伝的な要因があると考えられています。親や祖父母にCDHの既往歴や、変形性股関節症での痛み、歩行困難、股関節手術歴があるかを確認することが大切です。
骨盤位分娩だった人
お尻が先に出る骨盤位分娩では、股関節脱臼のリスクが通常の分娩に比べて約10倍高いとされています。帝王切開でも、胎児が子宮内で膝を伸ばしたままで成長すると、股関節脱臼が起こりやすくなります。
CDHの予防方法
股関節を曲げた姿勢を保つ
乳児期には股関節や膝が曲がった状態であるため、無理に伸ばすことは避けましょう。「M字開脚」と呼ばれる、両膝を曲げて股関節を開いた姿勢を保つことが重要です。
足の動きを制限しない
股関節を無理に伸ばすようなきついおむつカバーや厚い服、スリングなどは避けることが大切です。赤ちゃんが自由に足を動かせるよう、ゆったりした服装を心がけましょう。
抱き方に注意する
赤ちゃんを抱くときは、足を開いた「コアラ抱っこ」をしましょう。お尻と太ももをしっかり支えることで、股関節に負担がかからないようにします。
向き癖に注意する
赤ちゃんに寝返りの癖がある場合、体重が偏って股関節に影響が出ないよう、向き癖に注意しましょう。
関連する病気
股関節形成不全
エラスチン異常
神経筋疾患
ダウン症候群
多発性関節脱臼
参考文献
若林健二郎:発育性股関節形成不全.日本小児整形外 科学会(監),日本小児整形外科学会教育研修委員会 (編):小児整形外科テキスト,改訂 2 版,メジカル ビュー社,東京,pp132‒139,2016
金郁喆. 疫学. 先天性股関節脱臼の診断と治療. 尾崎敏文, 赤 澤啓史編.東京:メジカルビュー社;2014. p.16-9

