1件のクレームで自治体が「キャンセル」に動く理由 "自治体内弁護士"が語る役所の判断のリアル

1件のクレームで自治体が「キャンセル」に動く理由 "自治体内弁護士"が語る役所の判断のリアル

●少数意見でも「一理ある」と判断される場合も

──クレームが少数の場合はどうでしょうか。

一方で、クレームが少数の場合は、多数届いた場合に比べて断りやすいといえますが、自治体は軽視できません。

「クレーム」とは、本来「主張」や「要求」を意味し、自治体としては少数の声にも真摯に耳を傾け、その妥当性を検討する責務があります。

当初の対応に自信があり、その重要性を認識している場合は「クレームに妥当性なし」と判断しやすいでしょう。

逆に、当初の対応に自信がなかったり、その重要性を認識していなかったりする場合には、「クレームに一理ある」として受け入れる可能性もあります。

もちろん、過度のクレームに職員が疲弊し、不要な譲歩をしてしまうケースもありえます。ただし、そのような場合だけではなく、「どちらを選んでも違法ではなく、自治体としても特に強いこだわりもないため、クレームを受け入れる」という判断がされることもありうるところです。

要は、自治体の当初の行動に対する「熱意」が問われるのです。「ぜひともこれでいきたい」という思いがあるか、それとも「どちらでもいい」という姿勢なのかで、対応は大きく変わるはずです。

●「お役所仕事」ではなくリソースの限界が現実問題に

──内部の判断は「キャンセル」に傾きやすいのでしょうか。

過去はさておき、現在の自治体において、いわゆる「お役所仕事」のような、事なかれ主義が多数派とはいえません。

むしろ膨大な事務を限られた人員と予算で処理せざるを得ない中で、どの業務にどれだけの人的・物的リソースを割くかという「現実的な判断」が迫られているのです。

ただし、「リソース不足だから仕方ない」という理由が社会的に許容されるわけではありません。

業務の重要性を再確認したうえで、専門家に助言を求める、当事者や関係者の意見を事前に聞く、「本当の世論」を把握する──。こうした手続きを怠れば、結果的に誤った判断を招くおそれがあります。

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