《ファルネーゼのアトラス》西暦2世紀 大理石 高さ193cm、直径102cm ナポリ国立考古学博物館
万博が閉幕しても、イタリア館の物語は終わりません。《ファルネーゼのアトラス》をはじめとする一部の展示作品がもうしばらく日本に留まり、特別展『天空のアトラス イタリア館の至宝』にて再び公開される運びとなりました。
本展は2026年に日本とイタリアが国交160周年を迎えることを祝し、大阪市立美術館にて開幕。会期は10月25日(土)~2026年1月12日(月・祝)です。
レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第1112紙葉 表 《巻き上げ機と油圧ポンプ》1478年頃 アンブロジアーナ図書館(ミラノ)© Veneranda Biblioteca Ambrosiana/Metis e Mida Informatica /Mondadori Portfolio.
さらに、本展の開幕に際し、レオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティコ手稿』が新たに来日。日本初公開となる本作が加わり、パワーアップした展覧会となりました。
ぜひ会場に足をお運びください、と言いたいところですが、オンラインチケット(日時指定予約)の全日程分が販売開始から1日で完売…。当日券の販売もなく、今後の対応については美術館からの発表が待たれるところです。
見通しが立つまでは、この記事を通して少しでも本展の雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです!
古代彫刻の傑作《ファルネーゼのアトラス》
《ファルネーゼのアトラス》西暦2世紀 大理石 高さ193cm、直径102cm ナポリ国立考古学博物館
イタリア館で最も注目を浴びた作品といえば、《ファルネーゼのアトラス》ではないでしょうか? 本展でも、高さ約2メートル、重さ約2トンという大理石彫刻の堂々たる風格を、360°どこからでも鑑賞できます。
「アトラス」とは、ギリシャ神話に登場する巨人のひとり。ゼウスとの戦いに敗れたため、世界の西の果てで天空を背負う役目を負わされることになりました。本作では、苦しそうに天球儀を担ぐアトラスの姿が表現されています。
《ファルネーゼのアトラス》(部分)西暦2世紀 大理石 高さ193cm、直径102cm ナポリ国立考古学博物館
本作はヘレニズム時代に作られた彫刻を模して、古代ローマ時代(紀元2世紀)に作られたものと考えられます。発見されたのは16世紀のルネサンス期で、当初は顔の一部と手足が欠損した状態でしたが、補われて今に至ります。
そのため、よく見ると両腕・両脚のつけ根のあたりにつなぎ目があるのがわかります。目を引かれやすいお顔も、実は後から補完されたものなのです。
《ファルネーゼのアトラス》(部分)西暦2世紀 大理石 高さ193cm、直径102cm ナポリ国立考古学博物館
しかし天球儀は古代ローマ時代に作られたオリジナルのものがそのまま残っているとのこと。元の作品は古代ギリシャ時代に作られましたが、本作の天球儀には古代ローマ時代の知見が盛り込まれており、ギリシャ彫刻の単なるコピーではありません。
天球儀は、宇宙を外側から見た視点で作られています。表面には星座が描かれ、おうし座やおひつじ座、てんびん座など、星占いでおなじみの「黄道十二星座」を見て取れます。
《ファルネーゼのアトラス》(部分)西暦2世紀 大理石 高さ193cm、直径102cm ナポリ国立考古学博物館
時が経つにつれて少しずつ移動する春分点・秋分点の位置から、本作の天球儀がどの時代の観測をもとに作られたかがわかるそう。さらに、常現圏、常隠圏の範囲から「どの緯度で観測されたのか?」までわかってしまうのだとか。
古代ローマ人の科学的な知識もさることながら、それに忠実に天球儀をデザインした彫刻家も凄い…。本作は、古代ギリシャ、古代ローマ、ルネサンスをつなぎ、科学と芸術の歴史を現代に伝えています。
《ファルネーゼのアトラス》(部分)西暦2世紀 大理石 高さ193cm、直径102cm ナポリ国立考古学博物館
苦しそうに歪むアトラスの表情に注目しがちですが、古代ギリシャらしい肉体表現が見られる胴体や、古代ローマの科学に基づく天球儀の細かな装飾も、ぜひ堪能してくださいね。
ラファエロの師匠ペルジーノによる名画《正義の旗》
ピエトロ・ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ)《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》1496年 ウンブリア国立美術館(ペルージャ)© Galleria Nazionale dell'Umbria
同じくイタリア館で大きな注目を集めた作品が、ピエトロ・ヴァンヌッチ《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの 聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》です。
ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ、1450-1523)は、日本ではあまり知られていませんが、ラファエロの師匠としても有名なルネサンス期の重要な画家。フィレンツェのヴェロッキオに弟子入りしていたため、レオナルド・ダ・ヴィンチの兄弟子でもあります。
ピエトロ・ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ)《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》(部分)1496年 ウンブリア国立美術館(ペルージャ)© Galleria Nazionale dell'Umbria
もともと宗教行列の際に掲げる旗(ゴンファローネ)として依頼された本作は、上下2段の構成です。上部には、聖母子と天使たちがいる天上の世界が描かれています。顔だけで表された天使が風変わりに感じられて気になりますが、体のある天使よりも高位の存在を示しているそう。
ピエトロ・ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ)《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》(部分)1496年 ウンブリア国立美術館(ペルージャ)© Galleria Nazionale dell'Umbria
下部には、聖母子を仰ぐ2人の守護聖人が大きく描かれています。祈りを捧げる人々も小さく描かれ、背景のペルージャの街並みも精緻に表現されています。
ピエトロ・ヴァンヌッチ(通称ペルジーノ)《正義の旗―聖フランチェスコ、シエナの聖ベルナルディーノ、祈る正義兄弟会の会員たちのいる聖母子と天使》(部分)1496年 ウンブリア国立美術館(ペルージャ)© Galleria Nazionale dell'Umbria
そういえば、天上の世界と地上の人々がひとつの画面に描かれた作品は、あまり多くはないように思います。聖なる世界と私たちの暮らしが調和した本作は、見る人の心を優しく癒してくれるのではないでしょうか?
