東京拘置所の刑務官から性被害を受けたとして、収容されていた男性が国に損害賠償を求めた裁判は11月17日、東京地裁で和解が成立した。
国が原告に解決金60万円を支払うほか、東京拘置所の全職員を対象に人権研修を実施することなどを約束する内容だ。
和解成立後、原告代理人が東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いて明らかにした。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●食器口越しに陰部を触る
代理人によると、原告の男性(当時32歳)は東京拘置所に収容されていた2021年12月28日夜、薬を渡しに来た刑務官から陰部を見せるように求められた。
男性が断ることができず、ズボンを脱いで陰部を露出したところ、刑務官は、食事の受け渡しに使う差し込み口に近づくよう指示。そこから手を入れて、男性の陰部を握って数分間、前後に動かしたという。
男性は直後からノートに被害を書き留め、翌12月29日に別の職員に相談。さらに年が明けた2022年1月3日には「被害届を出そうと思っている」「弁護人に相談しようと思っている」と伝えたが、職員から「できれば被害届を出すのはやめてほしい」と言われた。
その後、男性が1月4日に弁護人宛ての手紙を発送して初めて、拘置所側は加害者の刑務官を担当から外す措置をとったという。
また拘置所による聞き取りを受ける中で、被害状況の再現を求められ、「ズボンを下ろせ」などと指示されて、下着姿の写真も撮られた。
こうした被害後の対応にも問題があるとして、男性は2023年8月、国に対して損害賠償を求めて提訴していた。
●東京拘置所長が「遺憾の意」、全職員に研修実施
この日の記者会見で代理人は、和解の内容として、国が解決金として60万円を原告に支払うことのほか、東京拘置所の所長に以下の対応を約束するものだという。
(1)刑務官による被収容者への性的凌辱(りょうじょく)行為について、東京拘置所長が遺憾の意を表する。
(2)拘置所の全職員を対象に外部有識者による人権研修を実施し、職員による被収容者への性犯罪の再発防止に努める。
(3)職員による性犯罪が発生した場合において、被害者への対応や上司への報告などを適切にできるような組織体制作りに努める。
(4)被収容者への性犯罪の捜査を行う職員を対象に、被害者の心情に配慮し、二次被害を防ぐための捜査方法などに関する研修を実施する。
研修実施にあたっては、「刑事施設では、刑務官と被収容者の関係が圧倒的な支配服従関係に陥ることがあることや、相手の立場への配慮を意識させることなどを習得させる内容」にするよう求めた。


