
ヤマロク醤油は小豆島の東側で古くから醤油の蔵元を営んでいます。現在では、全国でも少なくなってきた全樽木桶仕込みにこだわった醤油造りをしています。こだわるあまりに、木桶造りにまで手を染めたヤマロク醤油をご紹介します。
ヤマロク醤油の歴史

ヤマロク醤油があるのは小豆島の東側、内海湾から寒霞渓(かんかけい)に向かう山の麓に位置しています。車1台がやっと通れる細い路地を進んだ町の奥にあります。小豆島の気候は地中海性気候に似た、温暖小雨の瀬戸内海式気候。

そんな醤油造りに適した気候からか、明治の最盛期には、小豆島内だけで400軒もの醤油メーカーがありましたが、今では20軒ほどになりました。ヤマロク醤油の創業は、はっきりとした記録は残っていないそうですが、始まりは塩造り、その後、醤油を絞る前のもろみ屋を営み、昭和24年からは正式に醤油店となり、現在では5代目が当主となっています。
発酵調味料の美味しさの秘密

ヤマロク醤油で作られる醤油は、すべて木桶仕込みです。約3,000~6,000リットル(16~32石)の杉の木で作られた木桶を使用しています。木桶での醤油造りは温度管理が難しく、手間と時間がかかると言われています。加えて新しい木桶を造るのに1樽およそ500万円、その樽を保管する蔵の土壁の補修費や機械の修繕費と莫大な費用もかかるのです。それでも木桶仕込みにこだわる訳は、木桶仕込みの本物の醤油を未来に残し伝えたいという、醤油の美味しさを追求するが故なのでした。

醤油は、大豆を蒸し、発酵熟成させて作る発酵調味料です。その他、みりんや酢、味噌などの発酵調味料は、乳酸菌や酵母菌などの微生物によって成長し生きている調味料。安価で汎用性の高いプラスチックのタンクに微生物はほとんど育たないそうです。微生物の成長と美味しさを追求するためには、木桶が重要な働きをするのです。

ヤマロク醤油のもろみ蔵は、木造平屋で床は土間、壁は土壁、中に入るとひんやりとした空気の中で醤油の香りに包まれます。蔵は100年以上前(明治初期)に建てられ、国の登録有形文化財に指定されている貴重な建物です。蔵いっぱいに並んだ樽の製造年数は100年前のものから10年前のものまでと様々ですが、ひときわ目を引くのが、今にも崩れそうなくらいボロボロに見える杉桶です。腐っているわけではなく、この中にも大切な菌たちが暮らしているのだそうです。樽にはもちろん、梁や土壁など、土間の中には100種類という酵母菌や乳酸菌たちが暮らしているのだそうです。

この菌たちは、お金では決して買うことのできない貴重なものだから、風化して崩れた土壁を補修するときには、新しい土壁と練り直して元の場所に戻されるのだそう。蔵の中を見渡すと、樽を補修し、土壁や階段を大事に補修しながら、100年以上続いている環境をさらに生き続けさせようとする思いが伝わってきます。
