横浜流星が主演を務める大河ドラマ「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)の第36回「鸚鵡(おうむ)のけりは鴨(かも)」が9月21日に放送。すねたり、いじけたりする姿が視聴者の間でも「かわいい」「憎めない」と人気が高まっていた戯作者＆絵師の恋川春町(岡山天音)が迎えた展開に大きな反響が寄せられた。(以下、ネタバレを含みます)
■数々の浮世絵師らを世に送り出した“江戸のメディア王”の波乱の生涯を描く
森下佳子が脚本を務める本作は、18世紀半ば、町民文化が花開き大都市へと発展した江戸を舞台に、“江戸のメディア王”にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く痛快エンターテイメントドラマ。
蔦重はその人生の中で喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴を見い出し、また日本史上最大の謎の一つといわれる“東洲斎写楽”を世に送り出すことになる。
幕府“新時代”を目指す権力者・田沼意次役で渡辺謙、美人画が大評判となる喜多川歌麿役で染谷将太、蔦重の妻・てい役で橋本愛らが出演。語りを綾瀬はるかが務める。
■蔦重が出した松平定信を皮肉る本が絶版処分になる
意次をおとしめて、質素倹約の世を作ろうとしている定信(井上祐貴)を持ち上げているようでからかう本を出した蔦重。その思いがきちんと伝わらなかった蔦重は、翌年、新たに定信を皮肉る、春町の「鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)」、唐来三和(山口森広)の「天下一面鏡梅鉢(てんかいちめんかがみのうめばち)」を出すと、飛ぶように売れた。
定信は黄表紙好き。そんなうわさを聞いた蔦重は「意外とやりたい放題かもしれませんよ」と語ったが、そのもくろみは外れた。自分が“コケ”にされていることに気付いた定信は、「鸚鵡返文武二道」と「天下一面鏡梅鉢」、さらに前年に出した朋誠堂喜三二(尾美としのり)の「文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくどおし)」の絶版を命じた。
それをきっかけに、本来は武士である喜三二は、藩主に怒られて国元に帰ることになり断筆宣言。一方、春町は主君である松平信義(林家正蔵)が戯作を応援してくれていて、定信に「病となって隠居した」と伝え、かばってくれた。だが、定信は前年に春町が書いた「悦贔屓蝦夷押領(よろこんぶひいきのえぞおし)」にも怒りを募らせ、呼び出し状を送り付けた。
■蔦重と喜三二は春町に関する知らせに衝撃を受ける
呼び出し状を持って蔦重に会いに来た春町は、いっそのこと死んでしまったことにして絵や戯作を生業とする別人として生きるという蔦重の突拍子もない案を気に入る。
蔦重は、喜三二の送別会で喜三治が戯作者を続けたくなる仕掛けをして成功。そのとき、養父・駿河屋(高橋克実)から春町の新たな人別(※現代でいう戸籍のこと)を受け取った。
蔦重はもちろん、視聴者もこれがうまくいってほしいと願うばかりだった。ところが、そのころ春町はある決断をしていた。
蔦重が送別会から戻ったところに、喜三二が駆け込んできた。喜三二は震えながら「春町が腹切ったって……」と絞り出した。
弔問に訪れた蔦重と喜三二。蔦重は春町の妻から、「鸚鵡返文武二道」の裏表紙に書かれた辞世の歌を見せてもらう。読み終えて、ふと屑籠の中にあった破られた紙を目にした蔦重は、春町の妻に許しを得て、バラバラの紙片を並べ合わせる。そこには定信自ら春町の屋敷に来ることになり、主君からは逃げることを勧められるも、主君や倉橋家、さらには蔦重たちにも累が及ぶことになるかもしれないと決意したことが書かれていた。しかし、「恩着せがましいか…」と春町は破り捨てたのだった。
■春町を思う蔦重のたむけも悲しい
蔦重が喜三二とともに店に戻ると、歌麿や三和、大田南畝(桐谷健太)、北尾重政(橋本淳)、北尾政演(古川雄大)が来ていた。春町の辞世の歌「我もまた 身はなきものとおもひしが 今はの際は さびしかり鳧(けり)」を読み上げる南畝。すると重政が「“鳧”は鴨。鸚鵡のけりは鴨でつけるというひねりですかね」とポツリとつぶやいた。
ドラマ公式Xで明かされた歌意は「生きていても価値のない存在だと思っていたが、いざ最期の時を迎えてみると、やはりこの世への未練があって寂しいものだ」。戯作者らしいひねりを効かせた悲しく切ない歌だった。
三和がたまらず春町の辞世の歌をもじって腹を壊した歌を書き、政演がとがめる。「こんなのやってられねえじゃねえかよ！ふざけねえとよ」と三和。そこで蔦重が口を開いた。死に顔を見た際、春町の髷に「豆腐がついていたんです。あれって、もしかして…」と。政演は「『豆腐の角に頭ぶつけて死んだ』ってことにしたかったってことですかい？」と驚く。
すると喜三二が「戯作者だから…。真面目な、クソ真面目な男だったじゃない。ふざけるのにも真面目でさ。恋川春町は、最後まで戯(たわ)けねえとって考えたんじゃねぇかなあ」と涙がこぼれないように上を見ながら思いやった。
かつて放屁芸を“クソ真面目”に披露した春町の姿が思い浮かぶ。「べらぼうでさぁ！春町先生、おふざけが過ぎまさぁ！」という蔦重の叫びを機に、一同は笑い泣きとなった。
ラストで蔦重は春町の著書を桶の中に入れて店頭に並べていた。腹を切ったあと、春町は桶の中に入れておいた豆腐に”頭をぶつけた”のだ。倉橋格という武士として切腹というかたちで分をとおし、恋川春町という戯作者としては仲間たちを笑い泣きさせる最高のクソ真面目な“オチ”でその分をまっとうした。そんな春町へ蔦重からの、たむけといえるのではないだろうか。
SNSにも「こんな悲しいサブタイトルあるかよ」「あぁ春町先生…」「喜三二先生の涙がつらい」「涙が止まらない」「春町先生がもういないの結構ダメージ」「豆腐の角で泣く日がくるとは」と悲しみが広がり、「＃大河べらぼう」に続いて、「春町先生」「豆腐の角」がトレンド10位圏内に入る反響となった。
◆文＝ザテレビジョンドラマ部
