最大の問題は治療法が存在しないこと
生まれつき皮膚が非常に弱く、わずかな外力でも水ぶくれやびらんが生じてしまう表皮水疱症。なぜこのような症状が起こるのでしょうか。北海道大学大学院 医学研究院皮膚科学教室 准教授の夏賀 健先生が解説しました。

北海道大学大学院 医学研究院皮膚科学教室 准教授の夏賀 健先生
「健常な皮膚は、表皮と真皮がⅦ型コラーゲンというタンパク質によってしっかりと固定されています。しかし栄養障害型表皮水疱症の患者さんの場合、遺伝子の異常によってⅦ型コラーゲンが欠損または機能不全に陥っており、少しの外力で皮膚が剥がれ、水疱やびらんが起こってしまいます。
時間の経過とともに指や足の指が癒着してしまうと、物をつかむことが難しくなります。また、皮膚に繰り返し生じる創傷から皮膚がんが発生し、最終的にこれが致命的になるケースもあります」(夏賀先生)

掴めない、握れない、つまめない、引っ張れない、歩けない、と生活全般に大きな影響を与える/DebRA Japan 提供資料より
激しい痛みやかゆみによる肉体的苦痛や、毎日皮膚のめくれをケアすることを繰り返すことでの精神的負担も大きいのだそうです。
「患者さんが最も苦しんでいるのは、水ぶくれやびらんができるたびに激しい痛みを伴うこと。同時に強いかゆみもあります。全身が傷だらけになるため皮膚のバリア機能が失われ、そこから細菌感染を繰り返してしまうことも多く見られます。
さらに、毎日2時間以上かけてガーゼや包帯などの被覆材を交換する必要があり、家族の負担も非常に大きいのが現実です。表皮水疱症は患者本人だけでなく、その家族にとっても非常に医療的ニーズの高い疾患ですが、この病気の最大の問題は“根本的な治療法が存在しない”ことなのです」(夏賀先生)
1日も早く治療薬が欲しかった患者にとって、大きな希望
これまで国内では根本的な治療法はなく対症療法しかありませんでしたが、この度国内初の塗り薬が発売となりました。Krystal Biotechの日本法人、Krystal Biotech Japanが販売する遺伝子治療薬「バイジュベック®ゲル」は、表皮水疱症の4つの病型のうち、栄養障害型表皮水疱症の治療薬。表皮水疱症の患者のうちほぼ半数は栄養障害型と言われています。

栄養障害型表皮水疱症患者の創傷治療を目的とした遺伝子治療薬「バイジュベック®ゲル」
「この塗り薬は、ベクターと呼ばれる改変したウイルスを使ってⅦ型コラーゲンの遺伝子を皮膚細胞に導入し、そこで正常なタンパク質を作らせるしくみです。これにより皮膚の基盤構造が修復され、表皮と真皮の結合が再び安定します。結果として水ぶくれやびらんが治り皮膚が丈夫になるというメカニズムです。治療は週に1回、傷の部分に塗布します」(夏賀先生)

夏賀先生投影資料より
海外・国内でも臨床試験が行われ、有効性と安全性が確認されています。試験では治療から6ヶ月後には皮膚が完全閉鎖、つまり傷が治ることがわかりました。
「もちろん、すべての患者さんの傷が完全に治るわけではありませんし、重度の瘢痕化(はんこんか)や指の癒着をすぐに改善することは難しいでしょう。それでも、傷が早く治るということは、患者さんの痛みや苦しみが軽減され、皮膚のバリアができて感染リスクが下がり、さらに皮膚がんを予防できる可能性もあるとも考えられます。この薬によって、患者さんとご家族の生活の質が向上することを願っています」(夏賀先生)
患者会代表として、臨床試験にも参加した宮本さんは「今回の発売は患者にとって大きな希望となる」と強調します。
「患者と患者家族の多くは、1日でも早く治療薬が欲しいと望んできました。幼い患者の中には、毎日おふろに入るたびに傷の痛みで喉から血が出るほど泣き叫ぶ子もいます。親御さんはかわいそうだと思いながらも、清潔にしなければ感染して亡くなってしまうリスクが高まるためにやらざるをえないつらさがあるのです。
今回、臨床試験で実際に薬を使用してみて、瘢痕化した傷は治りが遅かったですが、新しい傷ほど治りがとても早かったという感想です。赤ちゃんのころからこの治療薬を使えれば、きっとよくなるだろうと期待しています」(宮本さん)
遺伝子治療を在宅で行うためには、運搬や保管、廃棄などを定める法律面で大きな課題がありましたが、Krystal Biotech Japanの笠本浩社長は「遺伝子治療薬の取り扱いにおける安全性を確保しながら、在宅での治療を可能にする新しい流通システムを確立した」と話しました。
薬価は1キット(1回の使用分)で約295万円で保険適用となります。講習を修了するなど要件を満たした医療機関のみが「バイジュベック®ゲル」の取り扱いを許可されることとなり、今後全国の大学病院を中心とした医療機関の約80施設で導入を見込んでいます。
Krystal Biotech Japan
https://www.krystalbio.jp/
(取材・文:早川奈緒子)
