「無下にお断りすることもできないので、本当に困っています。」
東京の銀座に店を構える老舗和菓子屋「木挽町よしや」が、Xに投稿した嘆きが話題を呼んでいる。
投稿では「訪日外国人のお客様。予約の場合ほとんどの方が、#無断キャンセルで取りに来てくれません」とうったえている。
その後、「外国人全員が無断キャンセルをするということではありません。当然常識のある方もいらっしゃいますのでお忘れないようお願い致します。ただ、あまりにも無断キャンセルが多いということです」と補足したが、困っていることは確かなようだ。
訪日客が増える中で、無断キャンセルは食材ロスを生み、他の客の購入機会も奪うため、店の経営にとって深刻な問題となる。
予約したのにかかわらず、受け取りに来ない場合、店側はキャンセル料や損害賠償を請求できるのか。また、相手が海外在住の外国人の場合、どんな対策が現実的なのか。今井俊裕弁護士に聞いた。
●購入申し込みと承諾で「契約」は成立
──予約した商品を受け取りに来ない客に対して、店側はキャンセル料や損害賠償を請求できますか?
和菓子屋のSNS投稿が大きな反響を呼んでいるようですが、消費者相手の小規模店舗にとっては切実な問題でしょう。正直、誠意のない、場合によっては悪質とも言える行為です。第三者としても憤りを感じます。
予約注文を受けて和菓子を製造して客へ引き渡す場合は「製造物販売契約」、すでに製造済みの和菓子を引き渡す場合は「売買契約」にあたります。いずれにせよ、客が購入を申し込み、店が承諾した時点で契約は成立します。
店内で商品を引き渡す、という条件ならば、店側は「約束の日時までに商品を引き渡せる状態にしておく」という義務を果たしていればよく、その日時に受け取りに来ない、つまりは代金も支払わないという行為は、客側の債務不履行となります。
客側が無断キャンセルした場合は、契約解除の通知もないため、単なる代金不払いで、違法です。
また、たとえ客側が電話などでキャンセルの意思を伝えたとしても、多くの場合、契約を解除できる法的根拠はありません。したがって、客側に代金支払い義務は残ったままです。
●「現金前払い」が最も確実な防止策
──相手が海外在住の外国人の場合、効果的な対策はありますか?
店側の現実的な自衛策は、事前に代金を受け取ること(前払い)に尽きます。それも可能であれば、現金での前払いが最も確実です。
最近はクレジットカードが一般的で、「現金払いは現実的ではない」という声もあるかもしれません。しかし、カード決済には「チャージバック」という制度があります。
チャージバックは、第三者による不正利用や、「商品が届かない」「商品に傷等の不具合がある」などの場合に、カード利用者がカード会社に返金を求めることができる仕組みです。カード会社が一定の調査をしたうえで正当と判断すれば、返金されます。
店側にカード会社から代金がすでに支払われていても、チャージバックが認められれば、店側は、カード会社や決済代行業者へ代金を返還する義務が生じます。
本来は正当なトラブル時に用いられる制度ですが、店側からすれば「最終的に代金を回収できないリスク」が残るため、不安になることでしょう。そのため、前払い、とくに現金での前払いが最も確実な対策といえます。
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html

