息子の噛みつき事件を受け、保育園で相手の母親と対面することになったゆかりさん。誠心誠意の謝罪を伝えようとしますが…。
謝罪の場、凍る空気
1歳半の噛みつきについて園で相手の親に謝罪することになった日、職場で早退の手続きを済ませ、自転車に飛び乗って、園へと急ぎました。汗ばむ背中に、風がひやりと吹きつけます。漕ぎながら何度も頭の中で謝罪の言葉を並べ替えていました。
今日は、そのことしか考えられませんでした。どうすれば、ちゃんと伝わるだろう。とにかく誠心誠意謝るしかありません…。昨日の先生の口調は優しかったものの、相手の親から圧をかけられていることがひしひしと伝わってきました。かなり厄介なことになっていることが感じ取れます。
胸が重くて、息が浅くなるのを感じながら、私は自転車のハンドルをぎゅっと握りしめました。
園についてすぐ面談スペースに案内されると、すでに相手のお母さんが座っていました。顔を見ると、ギョッとしてしまいました。言い方は難しいですが、いつも周囲に取り巻きのママがいるような、ちょっと派手で気が強そうな方で、見覚えがあったのです。
一気に胃が痛くなるのを感じながら、頭を深く下げ、謝罪しました。
「このたびは、本当に申し訳ありません」
「…で?」
そのお母さん(久美子さん)が返した言葉は、静かで冷ややかなものでした。
「えっと、まずは昨日の状況を整理して…」
先生が説明を始めようとしましたが、それを遮るように久美子さんは続けました。
「女の子を噛むなんて、ありえないことですよね?」
「この年齢の子にはよくあることですので…」
担任の先生が穏やかに補足しようとしますが、久美子さんはさらにたたみかけます。
「よくある、で済ませるんですか?」
園の部屋は静まり返り、空気が凍っているのを感じました。さらに、久美子さんは主観による罵倒を続けるのです。
愛情不足という刃
「こういっちゃなんですけど、愛情不足なんじゃないですか?ちゃんと愛情かけて育てていたら、噛んだりしませんよね?」
私は絶句しました。言い返したかったのですが、何をどう言えばいいのか、わかりませんでした。とにかく、噛んでしまった息子が悪いのは事実ですし、私が何かえらそうに言える立場でもありません。
ただ「申し訳ありません」と、もう一度頭を下げました。
その後、園長先生がそっと間に入ってくれました。
「お子さんはどの子も愛情たっぷりに育てられていると、私たちは感じていますよ。今もこうして、お子さんの行いに対して保護者の方が誠意を持って対応してくださっていると思います」
優しい口調で、温かく支えてくださる言葉に、泣いてしまいそうでした。
「ありがとうございます……」
そうつぶやくのが精いっぱいでした。

